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310 先天異常症候群 ○ 概要 1.概要 先天異常(malformation)症候群は、先天的に複数の器官系統に先天異常がある疾患の総称であり、単一部位に先天異常がある疾患と区別される。障害される解剖学的部位の組み合わせにより数十から数百の疾患に分類される。先天異常症候群で問題となる症状は、影響を受ける臓器による。心肺機能・消化管機能・難治性痙攣などの中枢神経障害等より生命の危険を生じることもあり、運動器や感覚器の進行性の機能低下による後遺症を残すこともある。 2.原因 多くは転写調節因子や構造タンパクの遺伝子の異常である。この20年間に代表的な多発先天異常症候群の原因遺伝子は多くが解明され、確定診断や治療に役立っている。 3.症状 先天的に複数の器官系統に先天異常がみられることに加えて、下記の徴候のいずれかがみられる時に先天異常症候群を疑う。 1)乳幼児期、体重増加不良や発育不良がみられる。 2)乳幼児期から発達遅滞や痙攣がみられる。 3)レントゲン上、骨格異常が見られる。 4)疾患に特異的な顔貌上の特徴がみられる。 5)家族が罹患するなど、先天異常症候群を疑う家族歴がある。 先天異常症候群の可能性がある場合には、必要に応じて他の合併症の有無を検索する。 4.治療法 先天異常症候群で問題となる症状は、原疾患や影響を受ける臓器による。重症度により治療法が選択される。成人期を越えて生命維持のために、治療と支援を必要とする場合もある。具体的には、1)呼吸器症状や重度知的障害等に伴う呼吸不全に対して気管切開や人工呼吸器使用を要する場合、2)重篤な知的障害等に伴う摂食障害に対する非経口的栄養摂取(経管栄養、中心静脈栄養など)、3)先天性心疾患に対する薬物療法・酸素療法、4)難治性てんかんに対する薬物療法、5)先天性尿路奇形等に伴う腎不全に対する腎代替療法、6)運動器や感覚器の進行性の機能低下に対して、外科的治療や補助的治療が行われる。その他、疾患に特異的な合併症に対する治療が行われる。 5.予後 原疾患や重症度により予後が異なる。原疾患や合併症によっては心肺機能低下・消化管機能低下・難治性痙攣などの中枢神経障害、腎不全等より生命の危険を生じることもあり、運動器や感覚器の進行性の機能低下による後遺症を残すこともある。なによりも、まれな疾患でもあり専門の施設での診断、治療、経過観察が大切である。  ○ 要件の判定に必要な事項 患者数 約4,000人 発病の機構 不明(遺伝子の関連が示唆されている。) 効果的な治療方法 未確立(対症療法のみである。) 長期の療養 必要(発症後生涯継続し、進行性である。) 呼吸不全、摂食障害、先天性心疾患、難治性てんかん、腎不全、運動器や感覚器の進行性の機能低下 診断基準 あり(研究班が作成し、学会が承認した診断基準) 重症度分類 学会の重症度分類を用いて、いずれかに相当する場合を対象とする。 ○ 情報提供元 日本小児科学会、日本先天異常学会、日本小児遺伝学会  当該疾病担当者 慶應義塾大学医学部臨床遺伝学センター 教授 小崎健次郎 厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業 「国際標準に立脚した奇形症候群領域の診療指針に関する学際的・網羅的検討」研究班 研究代表者 慶應義塾大学医学部臨床遺伝学センター 教授 小崎健次郎  1.主要項目 (1)先天異常症候群に含まれる疾患 ①微細欠失症候群等症候群 I.1q部分重複症候群 II.9q34欠失症候群 ②著しい成長障害とその他の先天異常を主徴とする症候群 I.コルネリア・デランゲ症候群 II.スミス・レムリ・オピッツ症候群 (2)除外事項 感染症、悪性腫瘍が除外されていること。 <診断基準> ①微細欠失症候群等症候群 I.1q部分重複症候群 Definiteを対象とする。 A.主症状 1.精神発達遅滞 2.成長障害 B.遺伝学的検査 1番染色体長腕に部分重複を認める。 <診断のカテゴリー> Definite:Aの2項目+Bを満たすもの 〔診断のための参考所見〕 中等度から重度の知的障害、成長障害、特徴的顔貌(逆三角形の顔、大頭症、耳介の奇形など)、骨格系の異常を特徴とする。中枢神経症状や心疾患、呼吸器疾患、消化器系の異常や腎尿路系の異常を伴うこともある。上記の症状を認める際に、染色体検査を実施する。症状のみから確定診断を行うことはできないが、染色体検査により確定診断を行うことが可能である。 II.9q34欠失症候群 Definiteを対象とする。 A.主症状 1.小頭症又は短頭症を伴う重度の知的障害(特に言語発達の遅れ) 2.成長障害 B.遺伝学的検査 1.9番染色体q34に欠失を認める。 2.EHMT1遺伝子異常を認める。 <診断のカテゴリー> Definite:(1)Aの2項目+Bの1を満たすもの (2)Aの2項目+Bの2を満たすもの ②著しい成長障害とその他の先天異常を主徴とする症候群 I.コルネリア・デランゲ症候群 Definite及びProbableを対象とする。 A.大症状 1.眉毛癒合 2.知的障害 3.成長障害(身長ないし体重が3パーセンタイル未満) B.小症状 1.長い人中又は薄い上口唇 2.長い睫毛 3.小肢症、第5指短小又は乏指症 C.遺伝学的検査 NIPBL、SMC1A、RAD21、SCC1、SMC3、HDAC8遺伝子等の原因遺伝子に変異を認める。 <診断のカテゴリー> Definite:Aの3項目+Cのいずれかを満たすもの Probable:Aの3項目+Bの3項目を満たすもの II.スミス・レムリ・オピッツ症候群 Definite及びProbableを対象とする。 A.大症状 1.第2趾と第3趾の合趾症(合趾となっている部分が第2趾ないし第3趾全長の1/2を超える。) 2.小頭症を伴う知的障害 3.眼瞼下垂 4.成長障害(身長ないし体重が3パーセンタイル未満) B.小症状 1.口唇口蓋裂 2.46,XY患者における女性外性器 3.光線過敏症 C.遺伝学的検査 DHCR7遺伝子等の原因遺伝子に変異を認める。 D.特殊検査 血中7-デヒドロコレステロールの上昇:>2.0mg/dL(血清中) <診断のカテゴリー> Definite:(1)Aのうち1を含む3つ以上+Cを満たすもの (2)Aのうち1を含む3つ以上+Dを満たすもの Probable:Aの4項目+Bのうち1つ以上を満たすもの <重症度分類> 以下の1)~4)のいずれかを満たす場合を対象とする。 1)modified Rankin Scale (mRS)、食事・栄養、呼吸のそれぞれの評価スケールを用いて、いずれかが3以上を対象とする。 日本版modified Rankin Scale (mRS) 判定基準書 日本版modified Rankin Scale (mRS) 判定基準書 日本版modified Rankin Scale (mRS) 判定基準書 modified Rankin Scale modified Rankin Scale 参考にすべき点 0 全く症候がない 自覚症状及び他覚徴候が共にない状態である 1 症候はあっても明らかな障害はない: 日常の勤めや活動は行える 自覚症状及び他覚徴候はあるが、発症以前から行っていた仕事や活動に制限はない状態である 2 軽度の障害: 発症以前の活動が全て行えるわけではないが、自分の身の回りのことは介助なしに行える 発症以前から行っていた仕事や活動に制限はあるが、日常生活は自立している状態である 3 中等度の障害: 何らかの介助を必要とするが、歩行は介助なしに行える 買い物や公共交通機関を利用した外出などには介助を必要とするが、通常歩行、食事、身だしなみの維持、トイレなどには介助を必要としない状態である 4 中等度から重度の障害: 歩行や身体的要求には介助が必要である 通常歩行、食事、身だしなみの維持、トイレなどには介助を必要とするが、持続的な介護は必要としない状態である 5 重度の障害: 寝たきり、失禁状態、常に介護と見守りを必要とする 常に誰かの介助を必要とする状態である 6 死亡 死亡
日本脳卒中学会版 食事・栄養 (N) 0.症候なし。 1.時にむせる、食事動作がぎこちないなどの症候があるが、社会生活・日常生活に支障ない。 2.食物形態の工夫や、食事時の道具の工夫を必要とする。 3.食事・栄養摂取に何らかの介助を要する。 4.補助的な非経口的栄養摂取(経管栄養、中心静脈栄養など)を必要とする。 5.全面的に非経口的栄養摂取に依存している。 呼吸 (R) 0.症候なし。 1.肺活量の低下などの所見はあるが、社会生活・日常生活に支障ない。 2.呼吸障害のために軽度の息切れなどの症状がある。 3.呼吸症状が睡眠の妨げになる、あるいは着替えなどの日常生活動作で息切れが生じる。 4.喀痰の吸引あるいは間欠的な換気補助装置使用が必要。 5.気管切開あるいは継続的な換気補助装置使用が必要。 2)難治性てんかんの場合:主な抗てんかん薬2~3種類以上の多剤併用で、かつ十分量で、2年以上治療しても、発作が1年以上抑制されず日常生活に支障をきたす状態。(日本神経学会による) 3)先天性心疾患があり、薬物治療・手術によってもNYHA分類でII度以上に該当する場合。 NYHA分類 I度 心疾患はあるが身体活動に制限はない。 日常的な身体活動では疲労、動悸、呼吸困難、失神あるいは狭心痛(胸痛)を生じない。 II度 軽度から中等度の身体活動の制限がある。安静時又は軽労作時には無症状。 日常労作のうち、比較的強い労作(例えば、階段上昇、坂道歩行など)で疲労、動悸、呼吸困難、失神あるいは狭心痛(胸痛)を生ずる。 III度 高度の身体活動の制限がある。安静時には無症状。 日常労作のうち、軽労作(例えば、平地歩行など)で疲労、動悸、呼吸困難、失神あるいは狭心痛(胸痛)を生ずる。 IV度 心疾患のためいかなる身体活動も制限される。 心不全症状や狭心痛(胸痛)が安静時にも存在する。 わずかな身体活動でこれらが増悪する。
NYHA: New York Heart Association NYHA分類については、以下の指標を参考に判断することとする。 NYHA分類 身体活動能力 (Specific Activity Scale:SAS) 最大酸素摂取量 (peakVO2) I 6 METs以上 基準値の80%以上 II 3.5~5.9 METs 基準値の60~80% III 2~3.4 METs 基準値の40~60% IV 1~1.9 METs以下 施行不能あるいは 基準値の40%未満
※NYHA分類に厳密に対応するSASはないが、「室内歩行2METs、通常歩行3.5METs、ラジオ体操・ストレッチ体操4METs、速歩5~6METs、階段6~7METs」をおおよその目安として分類した。 4) 腎疾患を認め、CKD重症度分類ヒートマップが赤の部分の場合。 ※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項 1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。 2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。 3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要なものについては、医療費助成の対象とする。 <参考資料> 疾患概要 ①微細欠失症候群等症候群 I.1q部分重複症候群 1.概要 知的障害、特徴的顔貌、骨格筋異常を特徴とする先天異常症候群である。1番染色体長腕上の遺伝子が3コピー存在することにより種々の症状を発症する。重複部位の大きさに依存して臨床症状が異なる。すなわち重複部位が大きいほど、臨床症状が強く合併症も多くなる傾向がある。また、重複部位に存在する遺伝子の種類も予後に影響を与える。重複部位が1q32より近位側からテロメアまでの重複を認める場合には、知的障害の程度が大きく、生命予後に影響を与える合併症(先天性心疾患等)が生じる傾向がある。単なる先天性の症状にとどまらず、小児期以降、成人期にも種々の症状を呈する。 2.原因 1番染色体長腕の部分重複により発症するが、多彩な臨床症状それぞれの発症機序は不明である。 3.症状 成長障害、知的障害、特徴的顔貌、骨格系の異常を主な特徴とする。知的障害は中等度から重度であり、重複部位とその大きさに依存する傾向にある。言語発達の獲得は多くの場合不良である。特徴的顔貌として、逆三角形の顔、大頭症または相対的大頭症、耳介低位や小耳介等の耳介奇形、小顎、上口唇突出(upper lip protrusion)、高口蓋、口蓋裂等を認める場合がある。骨格系の異常では足肢の重なりや多指、合指、内反足、外反足等を認める場合がある。中枢神経症状(てんかん、水頭症、小脳低形成等)や心疾患(肥大型心筋症、WPW症候群、動脈管遺残、卵円孔開存、上大動脈起始異常症、ファロー四徴症等)、呼吸器疾患、消化器系の異常(腸回転異常症、メッケル憩室等)や腎尿路系(先天性腎尿路奇形等)の異常を伴うこともある。また、新生児期から重篤な摂食障害を認める事も多く、成人期にも治療的介入を要する場合がある。症状のみから確定診断を行うことは不可能であり、染色体検査により確定診断を行うことが必要である。 4.治療法 確立した治療法はない。乳児期や小児期に先天性心疾患や腎尿路奇形に対する外科的治療が必要となることもある。呼吸器症状や重度知的障害に伴う中枢性呼吸不全に対して気管切開や人工呼吸器使用を要する場合がある。また、重篤な知的障害により摂食障害を伴うこともあり、非経口的栄養摂取(経管栄養、中心静脈栄養など)を必要とする場合もある。成人期以降も生涯にわたり、呼吸器疾患の対症療法、摂食等の支援、難治性てんかんに対する薬物療法、先天性心疾患に対する薬物療法、時に外科的治療が必要になることがある。 5.予後 生命予後は染色体重複の範囲による。知的予後・生命予後は不良であることが多い。主に難治性てんかんの併存および合併する心疾患が生命予後に影響を与える。経口摂取の可否、肺炎、誤嚥によっても生命予後が左右される。生涯にわたって注意深い治療と経過観察が必要である。 II.9q34欠失症候群 1.概要 精神発達遅滞・内臓奇形を伴う症候群である。9q34領域の微細欠失により、同領域に存在するEHMT1遺伝子(Euchromatic histone-lysine N-methyltransferase 1:EHMT1)を含む遺伝子のハプロ不全(欠失)により発症する。EHMT1遺伝子の機能喪失型変異によって同様の症状を呈する場合もある。EHMT1遺伝子は、多数の遺伝子の発現調節に関わるヒストン修飾因子であり、この遺伝子の機能低下によりエピジェネティクスの異常が生じて様々な症状を呈する。症状は多彩で、単なる先天性の症状にとどまらず、小児期以降、成人期にも種々の症状を呈する。 2.原因 9q34部分欠失により発症する。原因遺伝子は同領域に存在する複数の遺伝子群であるが、なかでもEHMT1遺伝子のハプロ不全は重要で、EHMT1遺伝子が発現調節する標的遺伝子群が影響を受けることにより多彩な症状が発現すると考えられている。それぞれの症状の発症機序の詳細は不明である。 3.症状 小頭症または短頭症、特徴的顔貌、重度の知的障害を認める。顔貌の特徴は、広い前額、合眉毛症、アーチ型の眉毛、眼裂斜上、厚い耳介、短鼻、舌突出等である。中枢神経症状(強直間代痙攣、欠神発作、複雑部分発作等)、先天性心疾患(心室中隔欠損症、心房中核欠損症、ファロー四徴症、大動脈縮窄症、肺動脈狭窄症等)、甲状腺機能低下症を伴うことがある。知的障害は重度の事が多く、言語能力の獲得は困難である。また、乳児期から小児期にかけて筋緊張低下を示し、運動発達にも遅れを生じることが多い。 症状のみから確定診断を行うことは不可能であり、染色体検査により確定診断を行うことが必要である。 中枢神経障害に続発して、摂食障害や呼吸障害を併発することがある。 4.治療法 確立した治療法はない。乳児期や小児期に先天性心疾患に対する外科的治療が必要となることもある。呼吸器症状や重度知的障害に伴う中枢性呼吸不全に対して気管切開や人工呼吸器使用を要する場合がある。また、重篤な知的障害により摂食障害を伴うこともあり、非経口的栄養摂取(経管栄養、中心静脈栄養など)を必要とする場合もある。成人期以降も生涯にわたり、呼吸器疾患の対症療法、摂食等の支援、難治性てんかんに対する薬物療法、先天性心疾患に対する薬物療法、時に外科的治療が必要になることがある。 5.予後 生命予後は染色体重複の範囲により、主に難治性てんかんの併存および合併する心疾患が生命予後に影響を与える。心臓が修復されれば、生命予後は悪くない。てんかんは難治性の事が多く、発作のコントロールは困難である事が多い。経口摂取の可否、肺炎、誤嚥によっても生命予後が左右される。生涯にわたって注意深い治療と経過観察が必要である。 ②著しい成長障害とその他の先天異常を主徴とする症候群 I.コルネリア・デランゲ症候群 1.概要 特徴的な顔貌(濃い眉毛、両側眉癒合、長くカールした睫毛、上向きの鼻孔、薄い上口唇、長い人中など)、出生前からの成長障害等を主徴とする先天異常症候群である。 2.原因 約半数の症例に5番染色体短腕(5p13)に存在するNIPBL遺伝子の変異を認める。その他、SMC1A、RAD21、SCC1、SMC3、HDAC8遺伝子にも変異を認める場合がある。 3.症状 ほとんどの症例で中等度から重度の知的障害が認められる。顔貌の特徴としては濃い眉毛、両側眉毛癒合、長くカールした睫毛、上向きの鼻孔、薄い上口唇、長い人中などが見られることが多い。高くアーチ型の口蓋や口蓋裂を伴うことも多い。多くの患者では成長障害は高度であり、出生前から見られ、生涯を通じて身長・体重共に3パーセンタイル未満となる。小頭症を認めることも多い。また、胃食道逆流や哺乳力微弱、口腔筋の協調障害等に伴う乳児期哺乳困難や摂食障害によって発育不全がさらに増悪することもある。また、橈尺骨癒合、尺骨側の指欠失、第5指彎曲等の上肢の異常を認めることが多い。下肢の異常(2~3趾の合趾等)も時に認められる。 その他、難聴(多くは両側性感音難聴)、側弯、貧血、行動異常、先天性心疾患(心室中隔欠損症、心房中隔欠損症、肺動脈狭窄、ファロー四徴症、左心低形成症候群等)、心内膜炎、呼吸器感染、屈折異常、停留精巣、先天性腎疾患(膀胱尿管逆流等)などが認められる。 重度知的障害に伴う中枢性呼吸不全に対して気管切開や人工呼吸器使用を要する場合がある。また、重篤な知的障害により摂食障害を伴うこともあり、非経口的栄養摂取(経管栄養、中心静脈栄養など)を必要とする場合もある。 4.治療法 本質的な治療法はない。先天性心疾患、難治性てんかん、呼吸障害・摂食障害等の合併症に対する対症療法が必要となる。難聴に対しては、早期に聴覚スクリーニング・補聴器の早期使用を考慮し、コミュニケーションを補うため、早期からサイン言語や身振り・手振りを取り入れる。成人期以降も、先天性心疾患、難治性てんかんに対する治療が必要な場合がある。 5.予後 生命予後は、合併する難治性てんかんの併存や先天性心疾患の合併、重度知的障害に伴う中枢性呼吸不全、摂食障害の程度に依存する。肺炎、誤嚥によっても生命予後が左右される。てんかんは約25%に認められる。生涯にわたって注意深い治療と経過観察が必要である。 海外例では54歳、61歳まで生存した患者が報告されている。成人期に胃食道逆流症の頻度が高い。胃食道逆流症が長期化するとバレット食道を併発するとされるが、本症患者の10%程度に、バレット食道が発症する。 II.スミス・レムリ・オピッツ症候群 1.概要 スミス・レムリ・オピッツ症候群は、コレステロール合成の最終段階である7-デヒドロコレステロール還元酵素をコードするDHCR7遺伝子の変異によってコレステロール産生が低下することにより発症する症候群である。コレステロール産生の低下は細胞膜の構成やステロイドホルモン合成の異常をきたし、全身性の多彩な症状を呈する。特徴的な症状として成長障害、小頭症、知的障害、特徴的顔貌、口蓋裂、外性器異常(男児)、合趾等が見られる。コレステロールから生成される副腎皮質ホルモンや性ホルモンの合成障害のため、二次的な副腎・性腺機能低下があり、補充療法を要する。酵素欠損症によるコレステロール代謝異常症であり、成人後も軽快することはない。 2.原因 染色体11q13.4に存在するDHCR7遺伝子が原因遺伝子である。この遺伝子の変異によってコレステロール産生が低下することで種々の症状が見られるが、多彩な症状が出現する機序の詳細は不明である。 3.症状 成長障害、小頭症、知的障害、特徴的顔貌(狭額症、内眼角贅皮、眼瞼下垂、上向きの鼻、小さい鼻、耳介低位等)、口蓋裂、外性器異常(男児)、第2趾と第3趾の合趾症、軸後性多指症等を特徴とする。難治性てんかんや痙攣をはじめとする中枢神経症状、先天性心疾患、喉頭・気道の奇形や換気障害をはじめとする呼吸器症状、腎奇形(水腎症、片腎、尿細管異常等)を伴うことも多い。 4.治療法 高コレステロール食と胆汁酸投与が臨床症状の軽減に有効であるとされるが根本的な治療法は確立していない。呼吸器症状や重度知的障害に伴う中枢性呼吸不全に対して気管切開や人工呼吸器使用を要する場合がある。また、重篤な知的障害により摂食障害を伴うこともあり、非経口的栄養摂取(経管栄養、中心静脈栄養など)を必要とする場合もある。生涯にわたり先天性心疾患、難治性てんかんに対する治療と支援が必要となる。コレステロールから生成される副腎皮質ホルモンや性ホルモンの合成障害のため、二次的な副腎・性腺機能低下があり、補充療法を要する。 5.予後 知的予後・生命予後は不良であることが多い。生存率の詳細は知られていないが、コレステロール産生能が器官形成と内臓機能維持に影響し、進行性の疾患である。平均余命は内臓機能低下の程度によって大きく影響を受ける。先天性心疾患や難治性てんかんは生命予後に大きな影響を与える。重度精神
運動発達遅滞があり、要支援状況が続く。生涯にわたって注意深い治療と経過観察が必要である。酵素欠損症によるコレステロール代謝異常症であり、成人後も軽快することはない。

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