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〈タイトル〉てんかんに認められたイントロンにおけるリピートの伸長変異
〈著 者〉石浦浩之・辻 省次
〈著者所属〉東京大学大学院医学系研究科 分子神経学講座
〈著者email〉ishiura-tky@umin.org(石浦浩之),tsuji@m.u-tokyo.ac.jp(辻 省次)
〈対象論文〉
Expansions of intronic TTTCA and TTTTA repeats in benign adult familial myoclonic epilepsy.
Hiroyuki Ishiura, Koichiro Doi, Jun Mitsui, Jun Yoshimura, Miho Kawabe Matsukawa, Asao Fujiyama, Yasuko Toyoshima, Akiyoshi Kakita, Hitoshi Takahashi, Yutaka Suzuki, Sumio Sugano, Wei Qu, Kazuki Ichikawa, Hideaki Yurino, Koichiro Higasa, Shota Shibata, Aki Mitsue, Masaki Tanaka, Yaeko Ichikawa, Yuji Takahashi, Hidetoshi Date, Takashi Matsukawa, Junko Kanda, Fumiko Kusunoki Nakamoto, Mana Higashihara, Koji Abe, Ryoko Koike, Mutsuo Sasagawa, Yasuko Kuroha, Naoya Hasegawa, Norio Kanesawa, Takayuki Kondo, Takefumi Hitomi, Masayoshi Tada, Hiroki Takano, Yutaka Saito, Kazuhiro Sanpei, Osamu Onodera, Masatoyo Nishizawa, Masayuki Nakamura, Takeshi Yasuda, Yoshio Sakiyama, Mieko Otsuka, Akira Ueki, Ken-ichi Kaida, Jun Shimizu, Ritsuko Hanajima, Toshihiro Hayashi, Yasuo Terao, Satomi Inomata-Terada, Masashi Hamada, Yuichiro Shirota, Akatsuki Kubota, Yoshikazu Ugawa, Kishin Koh, Yoshihisa Takiyama, Natsumi Ohsawa-Yoshida, Shoichi Ishiura, Ryo Yamasaki, Akira Tamaoka, Hiroshi Akiyama, Taisuke Otsuki, Akira Sano, Akio Ikeda, Jun Goto, Shinichi Morishita, Shoji Tsuji
Nature Genetics, 50, 581-590 (2018)
〈要 約〉
この研究において,筆者らは,わが国に多い良性成人型家族性ミオクローヌスてんかんにつき51の家系の遺伝子を解析し,49の家系について,SAMD12遺伝子のイントロンに存在するTTTCAリピートおよびTTTTAリピートの異常な伸長がその原因であることを見い出した.これらのリピートの長さはてんかんの発症年齢と逆相関を示し,また,患者のニューロンにおいてTTTCAリピートの転写により産生されるUUUCAリピートを含むRNA凝集体が認められた.SAMD12遺伝子に変異が認められない2つの家系については,おのおの,TNRC6A遺伝子およびRAPGEF2遺伝子のイントロンに同様のTTTCAリピートを含むリピートの伸長変異が見い出された.遺伝子が異なっても同じリピートにより同一の臨床症状が生じたことから,それぞれの遺伝子の機能の変化というよりはリピートそのものがこの疾患における病態に強く関与すると考えられた.また,患者のニューロンにおいて見い出されたRNA凝集体の存在から,RNAを介したニューロンの機能障害がてんかんにおける新規の病態機序であることが考えられた.
はじめに
てんかんは頻度の高い神経疾患であり,有病率は1%弱,生涯発病率は3〜4%とする報告がある.てんかんの原因として,外傷や脳血管障害などの後天的な要因により発症することもよくみられるが,一方で,双生児の研究などからは遺伝的な要因の関与もよく知られている.これまでの研究により,遺伝子の異常により起こるてんかんとしてイオンチャネルや神経伝達物質の受容体をコードする遺伝子の変異が多く知られており,ニューロンにおけるシナプス伝達機構や興奮性などに影響をおよぼすことが原因と考えられている.
この研究において,筆者らは,わが国において多く報告されている良性成人型家族性ミオクローヌスてんかん(benign adult familial myoclonic epilepsy:BAFME)という疾患につき原因遺伝子を探索した.この疾患はわが国において見い出され,1990年ごろにその疾患概念が確立された1-3).家族性に発症がみられ,遺伝形式は常染色体優性である.わが国における有病率として35,000人に1名という推計も報告されており,わが国において比較的頻度の高い疾患である4).発症年齢は通常20〜60歳で,症状としては手の細かい震え(振戦様ミオクローヌス)およびてんかん(全身性の強直間代発作)が認められる.通常,認知機能の障害は出現せず,手の震えもほとんど進行しないか,あってもきわめて緩徐であることから,"良性"という語が冠されている.この疾患は,familial essential myoclonus and epilepsy(FEME)1),familial adult myoclonic epilepsy(FAME)5),cortical myoclonic tremor with epilepsy(FCMTE)6),autosomal dominant cortical myoclonus and epilepsy(ADCME)7) など,さまざまな病名でよばれている.
これまで,原因遺伝子の同定をめざし精力的な分子遺伝学的な研究が進められ,第8染色体の長腕への連鎖が示されていた.しかしながら,候補領域に存在するすべての遺伝子につき,すべてのエキソンの塩基配列を解析しても発症の原因となる変異は見い出されないという謎につつまれた状態にあった5,8-10).
1.SAMD12遺伝子のイントロンに存在するリピートの伸長変異の発見
良性成人型家族性ミオクローヌスてんかんの51の家系,100名(発症者91名,非発症者9名)から協力を得た.まず,4つの家系について,マイクロアレイ法による遺伝子タイピングののち,SNP-HiTLink 11) をパイプラインとして用いてパラメトリック連鎖解析を実施したところ,第8染色体への連鎖が確認された.しかしながら,見い出された候補領域は420万bpと大きく,原因遺伝子の探索は困難であった.この疾患は日本人において多く見い出されていることから創始者効果の存在がうたがわれ,患者のあいだで共有されるハプロタイプが存在すれば候補領域の絞り込みに大きく貢献すると考えた.
2つの家系をくわえた6つの家系について,SNPデータを用いてハプロタイプを再構築した.その結果,420万bpの候補領域に複数の家系において共通する共通ハプロタイプが存在することが見い出され,すべての家系で共通する最小の候補領域として13万bpの領域までに絞り込まれた.この13万塩基対の領域にはSAMD12遺伝子のエキソン4と,イントロン3およびイントロン4の一部が含まれていた.次世代シークエンサーを用いた全ゲノム配列解読によりエキソン4には明らかな病原性の変異がないことが確認されたことから,イントロンにおいて変異を探索した.
イントロンに存在するまれなバリアントについてSanger法を用いて解析したところ,イントロン4において,参照配列においては短いTTTTAリピート(健常者では11〜21回)が存在する部位に関して,リピートの伸長変異が示唆されるデータが得られた(図1a).全ゲノム配列解読のデータをもういちど確認したところ,TTTTAリピートが異常に伸長しているのみならず,その下流に参照配列には存在しないTTTCAリピートが挿入されていることが示唆された.この変異の有無を51の家系についてrepeat-primed PCR法およびサザンブロット法により調べたところ,48の家系についてはすべての発症者においてTTTTAリピートの伸長変異およびその下流のTTTCAリピートの挿入,1つの家系については2つのTTTTAリピートの伸長変異のあいだにTTTCAリピートが挿入されていた(図1b).残りの2つの家系においてはSAMD12遺伝子にリピートの伸長変異は認められなかった.
この2つのリピートの構造を解明するため,患者のゲノムDNAから異常に伸長したリピートを含むゲノムの断片を細菌人工染色体を用いてクローニングしたもの,および,全ゲノムについて,それぞれ,長い塩基配列を取得することのできるロングリードシークエンサーを用いて塩基配列を解読した.その結果,リピートの全長の構造が明らかにされた.
2.異常に伸長したリピートの病原性
患者においてTTTTAリピートおよびTTTCAリピートの異常な伸長が見い出されたが,TTTCAリピートの伸長は1000名の健常者においては見い出されず,この疾患に特異的な変異であることが確認された.一方,TTTTAリピートは健常者の5.9%において伸長が認められたことから,発症にはTTTCAリピートの伸長が重要な役割をはたすと考えられた.
TTTTAリピートの伸長変異およびその下流のTTTCAリピートの挿入をもつ患者について,サザンブロット法によりリピートの長さを測定したところ,てんかんの発症年齢と有意に逆相関することが示された.すなわち,リピートが長いほど発症年齢が早まることが見い出された.また,患者のニューロンの核において,TTTCAリピートからの転写により産生されるUUUCAリピートからなるRNA凝集体が見い出され,RNAの毒性を介した病態機構の存在が考えられた.
3.別の遺伝子のイントロンにおける同様のTTTCAリピートの伸長変異の発見
2つの家系からはSAMD12遺伝子にてリピートの伸長変異が見い出されなかったため,100〜150塩基長のリードからリピートにより埋めつくされたリードを数えてヒストグラムを算出するプログラムTRhist 12) を用いて,2つの家系の発端者の全ゲノム配列のデータを解析した.その結果,別の2つの遺伝子のイントロンに同一のTTTCAリピートの伸長変異が存在することが明らかにされた.ひとつの家系においては,第16染色体のTNRC6A遺伝子のイントロンにおいて,TTTTAリピートにはさまれるかたちでTTTCAリピートの伸長変異が見い出された.この変異はこの家系の5名の発症者において共有され,1名の非発症者においては認められなかった.もうひとつの家系においては,第4染色体のRAPGEF2遺伝子のイントロンにおいて,やはりTTTTAリピートにはさまれるかたちでTTTCAリピートの伸長変異が認められた.TNRC6A遺伝子あるいはRAPGEF2遺伝子の当該の部位において,1000名の健常者にはTTTCAリピートの伸長変異は認められなかった.SAMD12遺伝子におけるリピートの伸長変異が原因となる疾患はBAFME1型とよばれ,また,これまで,類似の疾患がBAFME5型まで報告されているため,TNRC6A遺伝子およびRAPGEF2遺伝子にTTTCAリピートの伸長変異が認められる疾患を,BAFME6型およびBAFME7型と名づけた(図2).
おわりに
この研究において,筆者らは,3つの独立した遺伝子のイントロンにおいてTTTCAリピートが異常に伸長することが良性成人型家族性ミオクローヌスてんかんの原因であることを発見した.挿入部位はイントロンでありタンパク質をコードする部位ではないこと,挿入されている遺伝子は異なっていても同一のリピートの異常な伸長が同一の疾患をひき起こすことから,遺伝子がコードするタンパク質の機能の変化というよりは,リピートそのものが病態の中核となると考えられる.この研究は,独立した遺伝子において共通したリピートの伸長変異を同時に見い出したはじめての報告である.BAFME1型においてRNA凝集体が見い出されたことからも,RNAを介した病態機序が強く支持された(図3).仮説として,RNA凝集体にRNAプロセシングにかかわるRNA結合タンパク質が取り込まれて本来はたすべき機能をはたせなくなることにより,ニューロンの機能が障害されることがあげられる.また,リピートの伸長したRNAからはATGコドンのない状況で異常なタンパク質が翻訳されるという機序も提唱されており,このことも関与する可能性がある.
この疾患の発症の機構が解明されたことから,遺伝子検査によりこの疾患の診断確定ができるようになり,これまでに経験的に蓄積されてきたこの疾患の臨床的な特徴や治療法などに関する正確な情報を患者に提供できるようになる.また,これまでの治療法は一般的に用いられている抗てんかん薬であったが,原因が究明されたことから,より効果的な治療法の開発および研究が発展すると期待される.
イントロンにおけるリピートの異常な伸長によりてんかんが発症すること,さらに,同一のリピートの異常な伸長が3つの遺伝子において見い出されたという点は,これまでにない新規の知見である.このことは,ほかのてんかんばかりでなく,今後,多くの神経疾患において原因の究明に大きく貢献すると期待される.また,新たにBAFME6型およびBAFME7型が見い出されたように,新規のリピートの伸長変異を探索する今回の方法論は,ほかの神経疾患における原因遺伝子の探索に貢献すると期待される.
〈文 献〉
1) 稲月 原, 内藤明彦, 大浜栄作ら: ミオクローヌスとてんかんを合併する家族性疾患について: Familial essential myoclonus and epilepsy(FEME)の疾病分類学的位置付け. 精神神経学雑誌, 92, 1-21 (1990)
2) Ikeda, A., Kakigi, R., Funai, N. et al.: Cortical tremor: a variant of cortical reflex myoclonus. Neurology, 40, 1561-1565 (1990)
3) Yasuda, T.: Benign adult familial myoclonic epilepsy (BAFME). Kawasaki Med. J. 17, 1-13 (1991)
4) Uyama, E., Fu, Y. H. & Ptacek, L. J.: Familial adult myoclonic epilepsy (FAME). in Myoclonic Epilepsies (Delgado-Escueta, A. V., Guerrini, R., Medina, M. T. et al. eds.). pp. 281-288, Lippincott Willams & Wilkins, Philadelphia (1995)
5) Plaster, N., Uyama, E., Uchino, M. et al.: Genetic localization of the familial adult myoclonic epilepsy (FAME) gene to chromosome 8q24. Neurology, 53, 1180-1183 (1999)
6) van Rootselaar, A. F., van Schaik, I. N., van den Maagdenberg, A. M. et al.: Familial cortical myoclonic tremor with epilepsy: a single syndromic classification for a group of pedigrees bearing common features. Mov. Disord., 20, 665-673 (2005)
7) Guerrini, R., Bonanni, P., Patrignani, A. et al.: Autosomal dominant cortical myoclonus and epilepsy (ADCME) with complex partial and generalized seizures: a newly recognized epilepsy syndrome with linkage to chromosome 2p11.1-q12.2. Brain, 124, 2459-2475 (2001)
8) Mikami, M., Yasuda T., Terao, A. et al.: Localization of a gene for benign adult familial myoclonic epilepsy to chromosome 8q23.3-8q24.1. Am. J. Hum. Genet., 65, 745-751 (1999)
9) 鈴木 隆: Familial essential myoclonus and epilepsy(FEME)の臨床遺伝学的検討と連鎖解析. 新潟医学会雑誌, 116, 535-545 (2002)
10) Mori, S., Nakamura, M, Yasuda, T. et al.: Remapping and mutation analysis of benign adult familial myoclonic epilepsy in a Japanese pedigree. J. Hum. Genet., 56, 742-747 (2011)
11) Fukuda, Y., Nakahara, Y., Date, H. et al.: SNP HiTLink: a high-throughput linkage analysis system employing dense SNP data. BMC Bioinformatics, 10, 121 (2009)
12) Doi, K., Monjo, T., Hoang, P. H. et al.: Rapid detection of expanded short tandem repeats in personal genomics using hybrid sequencing. Bioinformatics, 30, 815-822 (2014)
〈著者プロフィール〉
石浦 浩之(Hiroyuki Ishiura)
略歴:2011年 東京大学大学院医学系研究科 修了,2012年より東京大学医学部附属病院 助教.
研究テーマ:神経筋疾患の遺伝子解析.
関心事:神経疾患および筋疾患の成り立ちについて,遺伝子をとおして理解を深めたい.
辻 省次(Shoji Tsuji)
東京大学大学院医学系研究科 特任教授.
〈図説明〉
図1 良性成人型家族性ミオクローヌスてんかんにおいて認められたイントロンにおけるリピートの伸長変異
(a)リピートの伸長変異の同定のきっかけとなったデータ.SAMD12遺伝子のイントロンにおけるまれな変異をSanger法により探索していたところ,TTTTAリピートの存在に気づいた(上).このリピートの回数は発症者の父子において異なることが判明し,これはメンデル遺伝に反するようにみえたが(左下),発症者の父子はPCR法により増幅されない異常に伸長したアレルをもつと考えると(右下),合理的に解釈された.実際に,全ゲノム配列解読により,リピートの伸長変異に相当するデータが得られた.
(b)48の家系においては,SAMD12遺伝子のイントロン4にて短いTTTTAリピートが存在する部位において,TTTTAリピートの伸長変異およびその下流へのTTTCAリピートの挿入が認められた.1つの家系においては,同じ部位において,2つのTTTTAリピートのあいだにはさまれるかたちでTTTCAリピートの挿入が認められた.
図2 BAFME6型およびBAFME7型において認められたイントロンにおけるリピートの伸長変異
(a)BAFME6型.TNRC6A遺伝子のイントロンにおいて,TTTTAリピートのあいだにはさまれるかたちでTTTCAリピートの挿入が認められた.
(b)BAFME7型.RAPGEF2遺伝子のイントロンにおいて,TTTTAリピートのあいだにはさまれるかたちでTTTCAリピートの挿入が認められた.
図3 良性成人型家族性ミオクローヌスてんかんにおけるRNAを介した病態機序の仮説
3つの遺伝子のイントロンに同一のTTTCAリピートの挿入が認められたことから,リピートそのものが病態に直接的にかかわると考えられる.患者のニューロンにおいてはTTTCAリピートの転写により産生されたUUUCAリピートをもつRNA凝集体が確認されており,転写されたリピートを含むRNAを介した病態が想定される.
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