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@Toyofumi Fujiwara:00317 JSONTXT

317 三頭酵素欠損症 ○ 概要 1.概要 ミトコンドリアのβ-酸化系のうち、ミトコンドリア内膜に結合した長鎖脂肪酸のβ酸化回路を形成する2酵素の1つで、長鎖脂肪酸β酸化回路の第2の酵素エノイルCoAヒドラターゼ(enoyl-CoA hydratase:LCEH)、第3の 3-ヒドロキシアシルCoA脱水素酵素(3-hydroxyacyl-CoA dehydrogenase:LCHAD)、第4の3-ケトアシルCoAチオラーゼ(3-ketoacyl-CoA thiolase:LCKT)の3つの機能を持った三頭酵素の欠損症で、常染色体劣性遺伝の疾患である。発症時期で、新生児期発症型、乳幼児期発症型、幼児期以降に発症し骨格筋症状を主体とする遅発型に分類される。新生児マススクリーニングで診断された、又は家族検索で発見された無症状の症例はどの病型かに分類されるまで、発症前型と暫定的に分類する。 2.原因 三頭酵素の2つの遺伝子HADA、HADBのどちらかの変異による。  3.症状 新生児期に痙攣、意識障害、呼吸障害、心不全などで急性発症し、致死率が高い新生児期発症型から、幼児期から成人期に間歇的な横紋筋融解症、筋痛、筋力低下で発症する骨格筋型まで、臨床像は幅広い。本症では長期経過のなかで末梢神経障害(80%)、網膜障害(5~13%)を来す症例がある。 本症はタンデムマスを用いた新生児マススクリーニングの対象疾患であり、症状が出る前(発症前)に、新生児マススクリーニングで発見されることがある。 4.治療法 根本的治療法はなく、末梢神経障害、網膜障害は各種対症療法で防げない。食事間隔の指導、中鎖脂肪酸トリグリセリドの使用による急性発作予防が主である。 5.予後 新生児期発症型の予後は厳しい。乳児期発症型では発作後遺症として発達障害を来すことも多く、骨格筋型では、横紋筋融解を反復するほか末梢神経障害(80%)、網膜障害(5~13%)を来す症例がある。 ○ 要件の判定に必要な事項 患者数 100人未満 発病の機構 不明(HADAあるいはHADB遺伝子異常が原因であるが、同じ遺伝子変異でも未発症例や重症例があることなど、発病の機構、病態が未解明である部分が多い。) 効果的な治療方法 未確立(対症療法である飢餓予防を行っても急性発症することが多く、根本治療法が確立していない。) 長期の療養 必要(心筋、骨格筋の障害は継続しており、末梢神経障害、網膜障害の合併もあり十分な経過観察を必要とする。また、臨床的に安定していても酵素異常は継続しており、疾病が潜在しているので生涯にわたり経過観察、検査、食事療法を必要とする。また、重大な障害を残すこともある。) 診断基準 あり(研究班が作成し、学会が承認した診断基準) 重症度分類 日本先天代謝異常学会による先天性代謝異常症の重症度評価を用いて中等症以上を対象とする。 ○ 情報提供元 日本小児科学会、日本先天代謝異常学会 当該疾病担当者 岐阜大学大学院医学系研究科小児病態学 教授 深尾敏幸 厚生労働科学研究費補助金子ども家庭総合研究事業「タンデムマス等の新技術を導入した新生児マススクリーニング体制の研究」 研究代表者 島根大学小児科 教授 山口清次 厚生労働省難治性疾患政策事業「新しい先天代謝異常症スクリーニング時代に適応した治療ガイドラインの作成および生涯にわたる診療体制の確立に向けた調査研究」 研究代表者 熊本大学大学院 教授 遠藤文夫 日本医療研究開発機構 難治性疾患実用化研究事業「新生児タンデムマススクリーニング対象疾患の診療ガイドライン改定、診療の質を高めるための研究」 研究代表者 岐阜大学大学院 教授 深尾敏幸 <診断基準> Definiteを対象とする。 三頭酵素欠損症の診断基準 A.臨床症状 各病型で高頻度に認められる急性期の所見は以下の症状があげられる。 1.意識障害、痙攣 新生児期発症型、乳幼児期発症型でみられる。急激な発症形態から急性脳症、ライ様症候群と診断される場合も多い。 2.骨格筋症状 主に遅発型でみられる。横紋筋融解症やミオパチー、筋痛、易疲労性を呈する。感染や饑餓、運動、飲酒などを契機に発症することが多く、症状が反復することも特徴である。また一部の症例では妊娠中に易疲労性などがみられる。 3.心筋症状 新生児期発症型、乳幼児期発症型、遅発型にもみられる。新生児期発症型では、重度の肥大型心筋症とそれに伴う心不全、致死的な不整脈などがみられる。 4.呼吸器症状 新生児期発症型を中心として多呼吸、無呼吸、努力呼吸などの多彩な表現型を呈する。 5.消化器症状 特に乳幼児期発症型において、嘔吐を主訴に発症することがある。 6.肝腫大 新生児期発症型、乳幼児期発症型で多くみられる。病勢の増悪時には著しい腫大を認めることもあるが、間歇期には明らかでないことも多い。 B.参考となる検査所見 1.非~低ケトン性低血糖 低血糖の際に血中や尿中ケトン体が低値となる。ただし、完全に陰性化するのではなく、低血糖、全身状態の程度から予想される範囲を下回ると考えるべきである。強い低血糖の際に尿ケトン体定性で±~1+程度、血中ケトン体が1,000µmol/L程度であれば、低ケトン性低血糖と考える。血中ケトン体分画と同時に血中遊離脂肪酸を測定し、遊離脂肪酸/総ケトン体モル比>2.5、遊離脂肪酸/3ヒロドキシ酪酸モル比>3.0であれば脂肪酸β 酸化異常が疑われる。 2.肝逸脱酵素上昇 種々の程度で肝逸脱酵素の上昇を認めるが、脂肪肝を合併していることが多く、画像診断も参考になる。 3.高クレアチンキナーゼ(CK)血症 非発作時に軽度高値でも、急性期には著明高値(>10,000 IU/L)になることが多い。 4.高アンモニア血症 急性発作時に高値となることがあるが、輸液のみで改善することが多い。 5.筋生検 診断に筋生検が必須ではないが、筋生検の組織学的所見から脂肪酸代謝異常症が疑われることがある。 C.診断の根拠となる特殊検査 1.血中アシルカルニチン分析 長鎖アシルカルニチン、C16、C16:1、C18、C18:1とそのヒドロキシ体C16-OH、C18:1-OH等の上昇が特徴。新生児マススクリーニングでの診断指標は、ろ紙血においてC16-OH>0.05かつC18:1-OH>0.05(施設によって若干異なる)。二次検査では、ろ紙血および血清が用いられる。遅発型の一部では安定期のタンデムマス所見では生化学的異常が乏しいことに注意が必要である。 2.尿中有機酸分析 低血糖発作時には非又は低ケトン性ジカルボン酸尿(特に3-ヒドロキシジカルボン酸を含む。)を示す。間歇期などは所見がない場合が多いと思われる。 3.酵素学的診断 培養皮膚線維芽細胞などを用いたLCHAD活性、3-ケトパルミトイルCoA(3-ketopalmitoyl-CoA)を用いたチオラーゼ活性測定がなされる。 4.in vitro probe assay (β 酸化能評価) 培養リンパ球や培養皮膚線維芽細胞を用いたin vitro probe assayでは、培養上清のアシルカルニチンを分析することによって、細胞の脂肪酸代謝能を評価する。疾患特異的なアシルカルニチンプロファイルを確認でき、酵素診断に準じる。 5.イムノブロッティング 酵素に対する抗体を用いたイムノブロッティングでタンパクの欠損や明らかなタンパク量の減少により診断する。 D.遺伝子解析 HADA、HADB遺伝子の解析を行う。本邦では5名報告があるが全てHADB遺伝子の変異であった。日本人のコモン変異はまだ同定されていない。 <診断のカテゴリー> Definite: (1)発症前型以外では、Aの1~6のうち1つ以上+Cの1+Cの3~5及びDのうち1つ以上を認めるもの (2)新生児マススクリーニング等による発症前型においては、Cの1+Cの3~5及びDのうち1つ以上を認めるもの Probable: (1)発症前型以外では、Aの1~6のうち1つ以上+Cの1を認めるもの (2)新生児マススクリーニング等による発症前型においては、Cの1を認めるもの        <重症度分類> 先天性代謝異常症の重症度評価(日本先天代謝異常学会)を用いて中等症以上を対象とする。 <table> 点数 I 薬物などの治療状況(以下の中からいずれか1つを選択する) a 治療を要しない                       0 b 対症療法のために何らかの薬物を用いた治療を継続している       1 c 疾患特異的な薬物治療が中断できない 2 d 急性発作時に呼吸管理、血液浄化を必要とする         4 II 食事栄養治療の状況(以下の中からいずれか1つを選択する) a 食事制限など特に必要がない                 0 b 軽度の食事制限あるいは一時的な食事制限が必要である      1 c 特殊ミルクを継続して使用するなどの中程度の食事療法が必要である    2 d 特殊ミルクを継続して使用するなどの疾患特異的な負荷の強い(厳格な)食事療法の継続が必要である                          4 e 経管栄養が必要である                       4 III 酵素欠損などの代謝障害に直接関連した検査(画像を含む)の所見(以下の中からいずれか1つを選択する) a 特に異常を認めない         0 b 軽度の異常値が継続している    (目安として正常範囲から1.5SDの逸脱)   1 c 中等度以上の異常値が継続している (目安として1.5SDから2.0SDの逸脱)       2 d 高度の異常値が持続している    (目安として2.0SD以上の逸脱) 3 IV 現在の精神運動発達遅滞、神経症状、筋力低下についての評価(以下の中からいずれか1つを選択する) a 異常を認めない          0 b 軽度の障害を認める  (目安として、IQ70未満や補助具などを用いた自立歩行が可能な程度の障害) 1 c 中程度の障害を認める (目安として、IQ50未満や自立歩行が不可能な程度の障害)    2 d 高度の障害を認める  (目安として、IQ35未満やほぼ寝たきりの状態)     4 V 現在の臓器障害に関する評価(以下の中からいずれか1つを選択する) a 肝臓、腎臓、心臓などに機能障害がない 0 b 肝臓、腎臓、心臓などに軽度機能障害がある  (目安として、それぞれの臓器異常による検査異常を認めるもの) 1 c 肝臓、腎臓、心臓などに中等度機能障害がある (目安として、それぞれの臓器異常による症状を認めるもの) 2 d 肝臓、腎臓、心臓などに重度機能障害がある、あるいは移植医療が必要である   (目安として、それぞれの臓器の機能不全を認めるもの) 4             VI 生活の自立・介助などの状況(以下の中からいずれか1つを選択する) a 自立した生活が可能      0 b 何らかの介助が必要       1 c 日常生活の多くで介助が必要   2 d 生命維持医療が必要      4 総合評価 ⅠからⅥまでの各評価及び総点数をもとに最終評価を決定する。 (1)4点の項目が1つでもある場合     重症 (2)2点以上の項目があり、かつ加点した総点数が6点以上の場合   重症 (3)加点した総点数が3~6点の場合   中等症 (4)加点した総点数が0~2点の場合    軽症 注意 1 診断と治療についてはガイドラインを参考とすること 2 疾患特異的な薬物治療はガイドラインに準拠したものとする 3 疾患特異的な食事栄養治療はガイドラインに準拠したものとする </table> ※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項 1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。 2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。 3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要なものについては、医療費助成の対象とする。

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