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Minna_de_Honkoku@yhashimoto:L000075 JSONTXT

訓蒙 天然地理学 下天然地理学巻之下 第十四章 |水蒸気(すいじやうき) |水蒸気(すいじやうき)は|洋水(やうすい)の|面(おもて)、|或(あるい)は|他(た)の|水上(すいじやう)より|昇騰(しやうとう)して、 |空気中(くうきちう)に|懸(かゝ)るものなり、|空気(くうき)|暖(あたゝ)かなれば|水蒸気(すいじやうき) を|含(ふく)む事|多(おほ)く、|冷(ひややか)なれば、|少(すくな)し、一寸|立方(りうはう)の|空気(くうき)、三 十二|度(ど)の|温(あたか)さにては、|大約(たいやく)|水気(すいき)を|含(ふく)む|事(こと)二グレ ーンと三分の一より|多(おほ)からず、六十|度(ど)の|温(おん)にて は、|大約(だいやく)五グレーンと四|分(ぶん)一を|含(ふく)むべし、また七 千度の|温(おん)を|得(う)れば、八グレーンの|水蒸気(すいじやうき)を|含(ふく)む べし、|空気(くうき)十|分(ぶん)に|水蒸気(すいじやうき)を|含(ふく)む、之を|飽充(ほうじう)すと云 ふ、|今空気高(いまくうきたか)き|温度(おんど)を|以(もつ)て、|水気(すいき)を|飽充(ほうじう)する|時(とき)、そ の|温度(おんど)を|減(げん)ずれば、|含(ふく)む|所(ところ)の|水気(すいき)は、|忽(たちま)ちに|凝聚(ぎやうしやう) して、其|形状(かたち)見るべきに|到(いた)る、之を|雲(くも)と云ふ、また その|凝聚(ぎやうしやう)せる|水気地上(すいきちしやう)に|靉靆(あいたい)たれば、之を|霞(かすみ)と 云ふ、|或(あるい)はまた|雨(あめ)、|雹若(あられもし)くは|露(つゆ)となつて|地(ち)に|降(くだ)る、 雲 |雲(くも)は|凝聚(ぎやうしう)せる|水蒸気(すいじやうき)の、|空気中(くうきちう)に|懸在(けんざい)せるもの なり、その|高度(こうど)の|中数大約(ちうすうだいやく)二里|半(はん)なるべしと云 へり、 |露(つゆ)、 |水蒸気凝聚(すいじやうきぎやうしう)して、|水滴(みづたま)の|形(かたち)をなし、|草木(そうもく)の|葉面若(えうめんもし) くは|他(た)の|物体上(ぶつたいじやう)に在る、之を|露(つゆ)と云ふ、|露(つゆ)は|夜間(やかん) |地(ち)の|熱気線出(ねつきせんしゆつ)して、其|凉冷(りやうれい)なる事、|地上(ちじやう)の|空気(くうき)よ り|温度下(おんどくだ)る時は、|露(つゆ)を|生(せう)ず、また|空気(くうき)より|温度(おんど)|甚(はなは) だ|低(ひく)き|物体上(ぶつたいしやう)に在れば、|忽(たちま)ち|結(むす)んで|霜(しも)と為る、 |靄及(かすみおよ)び|霧(きり) 靄(かすみ)及(およ)び霧(きり)は空気中(くうきちう)に含(ふく)める水蒸気(すいじやうき)、地(ち)に近(ちか)く凝(ぎやう) 聚(しう)して、細微(さいび)なる水球(みつたま)となり、正(まさ)に滴下(てきか)せんと欲(ほつ) すれども、其|地(ち)は空気(くうき)より温度(おんど)多(おほ)きが故(ゆゑ)に、滴下(てきか) する能(あた)はずして、地上(ちじやう)若(もし)くは水上(すいじやう)に懸在(けんざい)するを 云ふ、    雨(あめ) 水蒸気(すいじやうき)となつて空中(くうちう)に昇(のぼ)り、凝聚(ぎやうしう)して滴状(てきぜう)をな し再(ふたた)び地上(ちじやう)に降(くだ)る之を雨(あめ)と号(ごう)す、雨は其|初(はじ)め稠(ちう) 密( みつ)する湿霧(しつむ)にして、其(その)細微(さいび)なる分子(ぶんし)、相(あい)抱合(ほうがう)して 稍(やゝ)大(だい)をなし、終(つひ)に円形(えんけう)の雨滴(うてき)となりて地(ち)に降(くだ)る ものなり、これ諸(しよ)物質(ぶつしつ)の持(ぢ)すべき造化(ざうくわ)自然(しぜん)の法(はう) にして、流動体(りうどうたい)は殊(こと)に此法(このはう)に属(ぞく)すべきものにて、 即(すなは)ち重力(ちようりよく)と凝聚力(ぎやうしうりよく)との作用(さよう)によるものなり、此(この) 理(り)は高崇(こうそう)なる礟(はう)【砲】台(だい)より、溶解(ようかい)せる鉛(なまり)を滴下(てきか)せば 其|降(くだ)る際(あいだ)、自(おのづか)ら雨滴(うてき)の形状(かたち)をなすを以(もつ)て証(せう)すべ し    雨(あめ)の量(りやう) 地球(ちきう)上(しやう)の各地方(かくちはう)に於て、年〻(ねん〳〵)降(くだ)る所(ところ)の雨(あめ)の量(りやう)、常(つね) に均(ひと)しからずといへども、その中数(ちうすう)を算(さん)するに、 二至(じし)|線内(せんだい)の地(ち)は雨(あめ)を降(くだ)す事|多(おほ)く、両極(りやうきよく)の方(はう)に趣(おもむ) けば其|量(りやう)漸(やうや)く減(げん)ず、しかれども雨(あめ)の量(りやう)は啻(ただ)緯度(いど) の高低(こうてい)に関(くわん)するのみにあらず、また地(ち)の高卑(こうひ)、樹(じゆ) 木(もく)も有無(いうむ)に係(かゝ)る、即(すなは)ち地(ち)の高処(こうしよ)及(およ)び樹木(じゆもく)はよく 湿気(しつき)を牽引(けんいん)すればなり、故(ゆゑ)に高(たか)くして且(かつ)樹木(じゆもく)繁(はん) 茂(も)せる地(ち)には、平坦(へいたん)にして荒蕪(くわうぶ)せる地(ち)より雨(あめ)を 降(くだ)する多量(たりやう)なり、雨(あめ)の量(りやう)また風(かぜ)に関(くわん)す、風(かぜ)もし洋(やう) 上(じやう)より来(きた)る時(とき)は、多量(たりやう)の水蒸気(すいしやうき)を搬運(はんうん)し、海浜(かいひん)若(もし) 高地(こうち)あるか、或(あるい)は深林(しんりん)密樹(みつじゅ)のあるあらば、水蒸気(すいしやうき) 牽引(けんいん)して雨(あめ)其地(そのち)を湿(うるほ)す、此|理(り)に依(よつ)て沿海(えんかい)の地(ち)と 内地(ないち)と、常(つね)に雨(あめ)の多少(たしやう)較著(かくちよ)なる差異(さい)を為(な)すなり    雨候(うこう) 赤道(せきどう)より十|度(と)以内(いない)の地(ち)一年(いちねん)の間(あいだ)に二回(にくわい)の雨候(うこう) と、二回(にくわい)の旱候(かんこう)あり、しかれども其|他(た)二至(じし)線内(せんない)の 地(ち)は、一|回(くわい)の雨候(うこう)と、一|回(くわい)の旱候(かんこう)あり、雨候(うこう)は短(みぢか)く は四月(よつき)長(なが)くは六月(むつき)に至(いた)る、この他(た)の時(とき)は絶(たえ)て雨(あめ) の降(くだ)る事なし、夫(それ)雨候(うこう)の雨(あめ)を降(くだ)すや、大約(だいやく)午時(ごじ)に 初(はしま)り沛然(はいぜん)たる事四五|時(じ)にして、雲(くも)忽(たちま)ちに消(せう)し、夜(よ) に入(い)れば雨(あめ)一滴(いつてき)を降(くだ)さず、しかるに二至線(じしせん)近傍(きんはう) 若(もし)くは、二至(じし)線(せん)内(だい)に在る地といへども、曽(かつ)て雨(あめ)の 降(くだ)らざる地(ち)あり、また之に反(はん)して終年(しやうねん)雨(あめ)の霽(はれ)ざ る地(ち)あり、次(つぎ)に記載(きさい)せる雨地(うち)及(およ)び旱地(かんち)の條(でう)を見 るべし   雨地(うち)及(およ)び旱地(かんち) 一年間(いちねんかん)殆(ほとん)ど雨(あめ)の降(くだ)ることを止(とゞ)めざる地(ち)あり、故(ゆゑ) を以(もつ)て此(この)地(ち)植物(しよくぶつ)の生長(せいちよう)繁茂(はんも)する、他(た)の地(ち)に超絶(てうぜつ) 雨(う)雪(せつ)地(ち)図(つ) 【図中 右上から左下】 北極線 変雨帯 旱地 北方 海水の平面に雪降る界線 旱地          夏至線 信雨帯 永湿帯 信雨帯 赤道 変雨帯 冬至線 南方海水の平面雪降る界線 せり、上図(しやうづ)に於て永湿帯(えいしつたい)と記(しる)して、一条(いちでう)の黒処(こくしょ)あ る、即(すなは)ち是(これ)なり、また旱地(かんち)は滋潤(じじゆん)なきが故(ゆゑ)、動物(どうぶつ)植(しょく) 物(ぶつ)の生長(せいちょう)するなし、斯(かく)の如(ごと)き雨(あめ)に乏(とも)しき地方(ちはう)は、 多|量(りやう)の露(つゆ)、或(あるい)は河水の溢流(いつりう)、或(あるい)は人巧(じんこう)等(とう)を以(もつ)て灌(かん) 漑(がい)に供(きよう)するあり、しからざる時(とき)は、其|地(ち)荒蕪(くわうぶ)無人(むじん) の境(さかい)あるべし、上図(じやうづ)に於て点(てん)を以(もつ)て囲(かこ)めるは、旱地(かんち) を示(しめ)すものなり、    雪(ゆき)、 水蒸気(すいじやうき)の細微(さいび)なる分子(ぶんし)、稍(やゝ)凝聚(ぎやうしう)して、未(いま)だ雨滴(うてき)と ならざる時(とき)、氷結(ひやうけつ)して地(ち)に落(おつ)る、之を雪(ゆき)と云ふ、海(かい) 水(すい)の平面(へいめん)に於て落雪(らくせつ)ある界(さかい)は、上図(じやうづ)に示(しめ)すが如 く、北半球(きたはんきう)は北(きた)アメリカにては、大約(たいやく)北緯(ほくゐ)三十度 大西洋(だいせいやう)にては四十|度(ど)、東大洲(とうだいしう)にては三十六|度(ど)の 地(ち)なり、しかれば西半球(にしはんきう)にては、合衆国(がつしやうこく)の殆(ほとん)ど全 地(ち)、及び其|北方(ほつはう)の諸邦(しよはう)、エウロツパの全地(ぜんち)、またア シアの過半(くわはん)、皆(みな)落雪(らくせつ)の界内(かいだい)にあり、また海水(かいすい)の平(へい) 面(めん)に雪(ゆき)の曾(かつ)て降(くだ)らざる地(ち)あり、即(すなは)ち中央(ちうわう)アメリ カ、南(みなみ)アメリカ、アフリカの大半(たいはん)、アシアの南部(なんふ)、マ ライシヤの全地(せんち)、オーストラリヤの殆(ほとんど)全地(せんち)是 なり、今(いま)地球上(ちきうじやう)海(かい)水の平面に於て、雪の常に降(くだ)る 地(ち)と、時(とき)あつて降(くだ)る地(ち)と、曾(かつ)て降(くだ)らざる地(ち)とを洞(とう) 知(ち)せば、再(ふたゝ)び海(かい)水の平面(へいめん)より上(うへ)に抽(ぬきん)でたる地に 在て、雪(ゆき)の降(くだ)る地(ち)と降(くだ)らざる地(ち)とある事を弁別(べんべつ) すべし、中|巻(くわん)空気(くうき)の条(でう)に説(と)けるが如く、空気(くうき)は海 面(めん)より上る事(こと)、愈(いよ〳〵)高(たか)ければ愈(いよ〳〵)薄(うす)くなるものにて、 較著(かくちょ)なる高度(こうど)に登(のぼ)れば、水はその流動(りうどう)体の姿勢(しせい) を失ひて氷結(ひやうけつ)し、水|蒸気(じやうき)は凝固(ぎやうこ)して雪となるに 至(いた)る、これ造化(ざうくわ)自然(しぜん)の妙理(めうり)にして、空気中(くうきちう)に一条(いちでう) の界線(かいせん)を引(ひ)けるが如くにて、水蒸気(すいじやうき)昇(のぼ)つてこ?の 線(せん)を超(こゆ)れば忽(たちま)ちに変(へん)じて雪(ゆき)となる事(こと)、上(かみ)にもい へるが如(ごと)し、故(ゆゑ)に此(この)想像(さうぞう)せる界線(かいせん)を雪線(せつせん)と云ふ、 今(いま)地球上(ちきうじやう)諸帯(しよたい)に在(あつ)て、正(まさ)に雪線(せつせん)に至(いた)れる高度(こうど)即(すなは) ち高山(こうさん)の永年(えいねん)積雪(せきせつ)ある部分(ぶぶん)の下界(かがい)、各(おの〳〵)相等(あひひと)しか らざる事を、次(つぎ)の図(づ)によつて弁別(べんべつ)すべし     雪線(せつせん) 地球上(ちきうじやう)諸帯(しょたい)雪線(せつせん)高低(こうてい)不等(ふとう)之(の)図(づ)【横組文、下から上へ読む】   【図縦軸下から】 五千尺 一万尺 万五千尺 二万尺 二万五千尺   【図横軸右から】 北緯  南緯  海水の平面  【図中文字上部右から】 北極線 夏至線 赤道 冬至線 南極線  【図中文字中部右から】 北極  エウロプ【ロとプの間に縦線】  アシア  アメリカ 南極 【右ページ図中文字ここまで】 【左ページ】 雪線(せつせん)は各(かく)緯度(ゐど)に随(したが)ひて異同(ゐどう)あるのみならず、同(どう) 緯度(いど)に在ても猶(なほ)各(おの〳〵)高低(こうてい)等(ひと)しからざる事あるは 上(かみ)の図(づ)に示(しめ)すが如し、しかれども其|大概(たいがい)を論(ろん)ず れば、海水(かいすい)の平面上(へいめんしやう)雪線(せつせん)の高度(こうど)は、愈(いよ〳〵)極(きょく)に近(ちか)けれ ば愈(いよ〳〵)減(げん)ずるものと為(な)す、○二至(にし)線内(せんたい)雪線(せつせん)は、海中(かいちゆう) 一万千尺より二万尺に至(いた)る、此(この)線極(せんきょく)に向(むか)ひ漸(やうや)く 低(ひき)く、緯度(ゐど)八十度に至(いた)れば、全(まつた)く海面(かいめん)に下(くだ)る事(こと)を 知(し)るべし、また雪線(せつせん)は赤道(せきどう)より十|度(ど)以上、二十度 の距離(きより)に在て、其|高度(こうど)かへつて赤道(せきどう)にあるより も高(たか)き事を見るべし、此|理(り)は当(まさ)に下(しも)に説(と)くが如 くなるべし、赤道(せきどう)にては日(ひ)地平上(ちへいしやう)にある事、十二 時に過(すぎ)ず、しかるに二至(じし)線(せん)に近(ちか)き地(ち)にては、最(もつと)も 長(なが)き日(ひ)は十三|時半(じはん)あり、此時(このとき)に当(あた)つて日(ひ)其地(そのち)を 直射(ちよくしや)して、其|熱(ねつ)は却(かへ)つて赤道(せきどう)直下(ちよくか)より甚(はなはだ)しきな るべし    氷原(ひやうげん) 氷原(’ひやうげん)は其|頂(いたゞき)常(つね)に積雪(せきせつ)ある高山(こうざん)の横面(わうめん)に成(な)るも のなり、温帯(おんたい)寒帯(かんたい)に於て最(もつと)も多(おほ)し、アルプとノル ウエゲン山(さん)の中間(ちうかん)、及(およ)びグリーンランド、又|極地(きよくち) の海岸(かいがん)に於て最大(さいだい)なるものを見る○氷原(ひやうげん)は雪(せつ) 線(せん)より遠(とほ)く下(しも)に在て、正(まさ)に林木(りんぼく)田圃(でんぼ)の境(さかい)に接(せつ)す る事あり、かく大(おほ)いなる氷原(ひやうげん)の生(せう)ずる所以(ゆゑん)は、半(なかば) は溪谷(けいこく)の広狭(くわうせう)に関(くわん)し、半(なかば)は雪山(せつざん)の大小(だいしやう)に関(くわん)す、○ スウイツェルランドの農夫(のうふ)の云く、痩(やせ)たる雪山(せつざん)は 肥たる氷原を生する能はずと○アルプ山ハフ ランク山(さん)とチーロル山(さん)の間(あいだ)に在(あつ)て、氷原(ひやうげん)を生(せう)ず る事四百|余(よ)処(しょ)にして、その長(なが)さ十五|里(り)より、二十 里(り)に至るものあり、    雪崩(ゆきなだれ)、 高山(こうざん)の雪(ゆき)、或(あるい)は氷原(ひやうげん)より、其|山下(さんか)の谿谷(けいこく)に溜(りう)【流の通仮字】下(か)す る所(ところ)の、氷雪(ひやうせつ)の塊(かたまり)、之を雪崩(ゆきなだれ)と云ふ、雪崩(ゆきなだれ)は時(とき)あつ て、人畜(じんちく)の生命(せいめい)を損(そん)じ、家屋(かおく)を毀傷(きしやう)する等(とう)の、害(がい)を 為(な)す事あり、    雹(あられ) 空気(くうき)の上層(しやうそう)に於て、水蒸気(すいじやうき)|雨滴(うてき)を結(むす)び、その落(おつ)る に当(あた)つて、温度(おんと)氷点(ひやうてん)に下(くだ)れる空気(くうき)の層(そう)を過(すぐ)れば、 忽(たちま)ち凝固(ぎやうこ)して雹(あられ)となる、もし稍(やゝ)凝固(ぎやうこ)して未(いま)だ氷(ひやう) 結(けつ)するに至(いた)らざれば、霙(みそれ)となつて降(くだ)るなり、夏候(かこう) に在ても、空気(くうき)|動(やゝ)もすれば俄(にはか)に寒冷(かんれい)なる事あり、 故(ゆゑ)に此候(このこう)|雹(あられ)を降(くだ)す事|往々(わう〳〵)之あり、   第十五章    気候(きこう)、 各異(かくゐ)地方(ちはう)の寒暖(かんだん)と、燥湿(そうしつ)の度(ど)を併(あわ)せ述(のべ)んが為(ため)に、 気候(きこう)なる名(な)を用(もち)ひたり、日(ひ)は地球上(ちきうしやう)各地(かくち)に温暖(おんだん) を与(あた)へ、且(かつ)乾燥(かんさう)ならしむが故(ゆゑ)に、日(ひ)地平上(ちへいしやう)にあ ればその地(ち)かならず暖(あたゝ)かなり、日没すれば其地(そのち) 必ず湿(うるほひ)を生(せう)ず、○地球(ちきう)外面(ぐわいめん)を五部(ごぶ)に分別(ぶんべつ)して、熱(ねつ) 帯(たい)、南北(なんぼく)二温帯(じおんたい)、南北(なんぼく)二寒帯(じかんたい)と号(ごう)せり、しかれども 只(たゞ)其|大概(たいがい)を示(しめ)すのみにて、未(いま)だ精密(せいみつ)なりとすべ からず、何(なん)となれば日熱(にちねつ)の力(ちから)、啻(たゞ)緯度(ゐど)に関(くわん)するの みならず、他(た)の理(り)に依(よつ)て差異(さい)を生(せう)すればなり、故(ゆゑ) に同緯度(どうゐど)の地(ち)に在りといへども、其|温度(おんど)同(おな)じか らざるものあるを認(みと)めたり、こゝに各地(かくち)気候(きこう)の 異同(ゐどう)を定(さだ)むべき数例(すうれい)あり、即(すなは)ち左(さ)の如(ごと)し○第一 各地(かくち)の緯度(ゐど)は、その気候(きこう)を定(さだ)むるに最(もつと)も緊用(きんよう)な るものとす、何(なん)となれば温度(おんど)は赤道(せきどう)に在て最(もつと)も 高(たか)く、緯度(ゐど)の加(くわ)はるに随(したが)ひて減(げん)ずるを、一般(いつぱん)の例(れい)と すればなり○第二、海水(かいすい)の平面(へいめん)より、各地(かくち)の高度(こうど) は、またその気候(きこう)に関(くわん)するものなり、仮令(たとへ)ば今(いま)吾(わが) 輩(はい)赤道(せきどう)より行(かう)を啓(ひら)きて、極地(きょくち)の方(かた)へ赴(おもむ)くにその 過(すぐ)る所(ところ)皆(みな)平地(へいち)ならば、行(ゆ)く事|数日(すうしつ)ならざれば、温(おん) 度(ど)の較著(いちじる)しく減(げん)するを覚(おご)えざるべし、しかるに 平地(へいち)より直(たゞ)ちに髙(たか)きに登(のぼ)る時(とき)は、温度(おんど)の変(へん)ずる を覚(おぼ)ゆる事|甚(はなは)だ速(すみや)かなり、僅(わづか)に百八十尺の高処(こうしよ) に登(のぼ)れば赤道(せきどう)より極地(きよくち)の方(かた)へ一|度(ど)、即ち六十九 里余(りよ)の遠(とほ)きに至(いた)ると、温度(おんど)の減(げん)ずる事(こと)相等(あひひと)し、ま た赤道(せきどう)の地(ち)に於て、海面上(かいめんじやう)一万五千尺の高(たか)さは、 永年(えいねん)積雪(せきせつ)ある地方(ちはう)、即(すなは)ち緯度(ゐど)七十度の地(ち)と同温(どうおん) なる事を知れり、○第三、山脈(さんみやく)の姿勢(しせい)と方向(はうこう)とは、 近傍(きんはう)各地(かくち)の気候(きこう)に、較著(かくちよ)なる徴(しるし)を顕(あらは)すべし、若(もし)山(さん) 脈(みやく)東(ひがし)より西(にし)に綿亘(めんたん)するものは、殊(こと)に気候(きこう)に係(かゝ)る 事|大(おほ)いなり、山陽(さんやう)の地(ち)は連山(れんざん)北風(ほくふう)を遮(さへ)ぎり、山陰(さんいん) の地(ち)は然(しか)らざるが故(ゆゑ)に、寒暖(かんだん)の差(さ)甚(はなは)だ大(おほ)いなり、 即(すなは)ちロシヤポーランドは、カルパジア山(さん)の北方(ほつはう) に在て、其|北(きた)に高地(こうち)なく、エウロツパ北部(ほくぶ)の平原(へいげん) を径過(けいくわ)する、凛冽(りんれつ)なる凍風(とうふう)を掩(おほ)ふあらざれば、そ の気候(きこう)殆(ほとん)どズウイデンの如くにして、民(たみ)厳寒(げんかん)に 苦(くる)しめり、またホンガリーは之に反(はん)して、カルパ ジア山脈(さんみやく)凛々(りん〳〵)たる北風(ほくふう)を遮(さへぎ)るが故(ゆゑ)に、ゼルマン 国(こく)の他地(たち)よりも暖(あたゝ)かなり、またシベリヤの寒気(かんき) 酷烈(こくれつ)なるは、北氷洋(ほくひやうやう)より来(きた)る所(ところ)の寒風(かんふう)を防(ふせ)ぐべ き山嶽(さんがく)なきに、却(かへ)つて南方(なんはう)には山脈(さんみやく)綿亘(めんたん)して、空(くう) 気(き)の寒冷(かんれい)を減(げん)ずべき温暖(おんだん)なる南風(なんふう)を界断(かいだん)すれ ばなり、またエウロツパ洲内(しうだい)ロシヤの中央(ちうわう)及(およ)び 南部(なんぶ)は、その緯度(ゐど)に比較(ひかく)するに、寒冷(かんれい)最(もつと)も甚(はなは)だし、 是またその北方(ほつはう)に山脈(さんみやく)の連続(れんぞく)するなくして、北(ほく) 来(らい)の寒風(かんふう)を防(ふせ)がざるに帰(き)す、○第四、各地(かくち)の海(うみ)に 突出(とつしゆつ)する事(こと)と、また海(うみ)より遠(とほ)ざかる事も、気候(きこう)を 定(さだ)むる一端(いつたん)に属(ぞく)す、大洋(だいやう)の水(みづ)は大約(たいやく)常(つね)に同温(どうおん)に して、陸地(りくち)の各地(かくち)寒暖(かんだん)均(ひと)しからざるが如くなら ず、その己(おのれ)より温度(おんど)高(たか)き物(もの)に遇(あ)ふ時は、其|熱(ねつ)を吸(きう) 収(しう)しまた温度(おんど)低(ひく)き物(もの)に接(せつ)すれば之(これ)に己(おのれ)の熱(ねつ)を 分(わか)ちて相均(あひひと)しからんとする偏性(へんせい)あり、故(ゆゑ)に寒風(かんふう) 洋上(やうしやう)を渡(わた)れば暖(あたゝ)かにして、熱風(ねつふう)洋面(やうめん)を過(すぐ)れば冷(ひやゝ) かなり、こゝを以て島国(とうこく)或(あるい)は沿海(えんかい)の地(ち)は、内地(だいち)或(あるひ) は海(うみ)より遠(とほ)ざかれる国(くに)よりも、冬天(とうてん)は気候(きこう)温和(おんくわ) にして夏日(かじつ)また酷暑(こくしょ)あらず○第五、地(ち)の傾斜(けいしゃ)日(ひ) に対(たい)する事、これまた気候(きこう)に関渉(くわんせふ)するに較著(かくちよ)な るものなり、日(ひ)の光線(くわうせん)地(ち)を射(い)る度(ど)と、日(ひ)の熱地(ねつち)を 暖(あたゝ)むる勢力(せいりよく)と、みな日(ひ)に対向(たいこう)する地の姿勢(しせい)に依(よつ) て異同(ゐどう)あり、日(ひ)もし地平上(ちへいしやう)四十五度の子午線(しごせん)に 昇(のぼ)る時は、同度(どうど)を以(もつ)て南(みなみ)に向(むか)へる地上(ちしやう)に、その光(くわう) 線(せん)を射(い)る度(ど)正角(せいかく)なり、しかるに山下(さんか)の平地(へいち)に在 ては、四十五度の角(かく)を以(もつ)て其|光線(くわうせん)を受(う)く、故(ゆゑ)に斯(かく) の如き地は、山腹(さんふく)と山下(さんか)と寒暖(かんだん)均(ひち)しきを得ず、○ 第六、各地(かくち)の土質(どしつ)気候(きこう)に関(くわん)する明徴(めいちよう)を顕(あらは)す、これ 其|土質(どしつ)熱(ねつ)を線出(せんしゆつ)する力(ちから)の強弱(きやうじやく)に因(よ)る、即(すなは)ち砂(すな)は 熱(ねつ)を受(うく)る事(こと)速(すみや)かにして、また容易(ようい)に其|熱(ねつ)を出(いだ)す、 故(ゆゑ)に砂(すな)多(おほ)き地(ち)は空気(くうき)をして温度(おんど)を増加(そうか)せしむ、 また泥(まつち)はこれに反(はん)して熱(ねつ)を受(うく)る事|甚(はなは)だ徐々(じょ〳〵)に して、また熱(ねつ)を出(いだ)す事|速(すみや)かならず、故(ゆゑ)に泥(まつち)多(おほ)けれ ば其|地熱(ちねつ)少(すくな)し、また沼沢(しやうたく)多(おほ)き地(ち)は空気(くうき)寒冷(かんれい)なり、 地(ち)広大(くわうだい)なる深林(しんりん)あれば亦(また)然(しか)り、○第七、各地(かくち)開拓(かいたく) を歴(ふ)る度(ど)、気候(きこう)に拘(かゝは)る所(ところ)多(おほ)し、沿沢(えんたく)の水(みづ)を尽(つく)し、林(りん) 木(ぼく)を伐払(きりはら)ふときは、其|地(ち)の温度(おんど)大(おほ)いに上(のぼ)るべし、 即(すなは)ち合衆(がつしやう)国の其(それ)の地(ち)に於て、大(おほ)いに林木(りんぼく)を伐(き)り 田圃(でんぼ)の開(ひら)きしに、気候(きこう)一変(いつへん)して冬日(とうじつ)の暖(あたゝか)なる、昔(せき) 日(じつ)の如(ごと)くならざるに至(いた)れり、しかれども林木(りんぼく)を 伐尽(きりつく)す事、動(やゝ)もすれば損害(そんがい)を生(せう)する事あり、何(なん)と なれは妄(みだ)りに林木(りんぼく)を伐尽(きりつく)す時は、其|地(ち)寒風(かんふう)或(あるい)は 暴風(ばうふう)の防(ふせ)ぎを失(うしな)ひ、また多量(たりやう)の滋潤(じじゆん)を減少(げんしやう)する に至(いた)る、これ植物(しよくぶつ)の葉(は)は大(おほ)いに水気(すいき)を噴出(ふんしゆつ)する ものなればなり、〇第八、各地(かくち)の風勢(ふうせい)その気候(きこう)に 較著(かくちよ)なる徴(しるし)を示(しめ)す、風(かぜ)の性(せい)は上(かみ)に説(と)けるが如く、 その来(きた)る所(ところ)の地方(ちはう)、その径過(けいくわ)する地面(ちめん)に従(したが)ひて 寒暖(かんだん)あるものなればなり、〇第九、各地(かくち)年々(ねん〳〵)降(くだ)る 所(ところ)の雨(あめ)の量(りやう)、その地(ち)に滋潤(じじゆん)の多少(たしやう)を与(あた)ふる事(こと)に 由(よつ)て、その気候(きこう)に関渉(くわんせふ)するまた最(もつと)も大(おほ)いなり、大(たい) 約(やく)雨(あめ)は内地(だいち)よりも嶋国(とうこく)或(あるい)は沿海(えんかい)の地(ち)に降(くだ)る事(こと) 多量(たりやう)なり、また山中(さんちう)は平地(へいち)より雨(あめ)多(おほ)く、二至線内(じしせんだい) の地(ち)は其他(そのた)の地方(ちはう)より雨(あめ)を得(う)る事|大(おほ)いなりと す、   気候(きこう)の分類(ぶんるい) 各地(かくち)の気候(きこう)分(わか)つて二類(じるい)と為(な)す、夏時(かじ)冬天(とうてん)その温(おん) 度(ど)甚(はなは)だしき差異(さゐ)あるもの、之を大洲(だいしう)の気候(きこう)と云 ふ、冬夏(とうか)の温度(おんど)稍(やゝ)差異(さゐ)少(すくな)きもの、之を海島(かいとう)の気候(きこう) と云ふ、仮令(たとへ)バイングランドの夏時(かじ)年々(ねん〳〵)平均(へいきん)の 温度(おんど)は、六十三度なり、冬候(とうこう)年々(ねん〳〵)平均(へいきん)の温度(おんど)は三 十七度にして、其|差(さ)僅(わづ)かに二十六度なり、しかる に北京(ぺきん)にては両季(りやうき)の温度(おんど)其|差(さ)五十六|度(ど)に至(いた)る、 即(すなは)ち英国の気候(きこう)は海島(かいとう)の気候(きこう)に属(ぞく)し、北京(ぺきん)の気(き) 候(こう)は大洲(だいしう)の気候(きこう)とす   同温線(どうおんせん) 同温線(どうおんせん)は地図(ちづ)の上(うへ)に記(き)す所(ところ)の線(せん)にして年々(ねん〳〵) 【左ページ図あり】 同温線之図 平均(へいきん)の温度(おんど)相(あひ)同(おな)じき地方(ちはう)を経界(けいかい)す、故(ゆゑ)に同(おな)じ同(どう) 温線(おんせん)内(だい)に在る地(ち)は、また年〻(ねん〳〵)平均(へいきん)の同温度(どうおんど)を保(たも) つとす、しかれども其 気候(きこう)敢(あへ)て一様(いちやう)なるにあら ず、某(それ)の地(ち)に在ては、冬天(とうてん)の気候(きこう)温和(おんくわ)なるに、夏時(かじ) また酷暑(こくしよ)あらざるあり、しかるに他(た)の地(ち)に在て 、暑寒(しよかん)その極(きよく)に至(いた)るものあり、また大熱線(だいねつせん)は赤(せき) 道(どう)の北方(ほつはう)に偏(へん)せり、これは地球上(ちきうしやう)の大陸(だいりく)多(おほ)く北(ほつ) 方(はう)に在るを以てなり   第十六章    礦物(くわうふつ) 衆多(しやうた)礦物(くわうぶつ)の諸性(しよせい)を論(ろん)ずる事は、別(べつ)に礦物学(くわうぶつがく)のあ るあり、天然(てんねん)地理学(ちりがく)の偏(ひとへ)に論(ろん)ずる所のものは、其 産出(さんしゆつ)する地方(ちはう)、地理学(ちりがく)に関涉(くわんせふ)するものを説(と)き、且(かつ) 地殻(ちかく)の成分(せいぶん)に居る所の礦物(くわうふつ)の質(しつ)を論(ろん)ず、抑(そもそも)礦物(くわうふつ) は地(ち)より産出(さんしゆつ)するものにして、化学作用(くわがくさよう)に由(よつ)て 成立し、其 凝固(ぎやうこ)するや結晶(けつせう)の妙機(めうき)に係(かゝ)る○礦物(くわうふつ) は岩石(がんせき)の虧隙(こげき)に在て、脈絡(みやくらく)の状(かたち)をなし、或(あるい)は塊(くわい)を なし、或(あるい)は床(ゆか)の形(かたち)をなし、或(あるい)は砂礫(しやれき)の形(かたち)をなして 産出(さんしゆつ)す、○砿物(くわうぶつ)の天下(てんか)に布籍(ふせき)するや、甚(はなは)だ広(ひろ)くし て、之を産(さん)せざる国(くに)は殆(ほとん)ど稀(まれ)なり、     金属(かねるい)、 金属(きんぞく)は時(とき)あつて其|純(じゆん)なる者(もの)を得(う)る事(こと)ありとい へども、大約(たいやく)他(た)の砿物(くわうぶつ)と混合(こんがう)して、岩石(がんせき)の状(かたち)をな す、之を砿石(くわうせき)と云ふ、○金属(きんぞく)の尤(ゆう)なるものは、黄金(わうごん) 白金(はつきん)、銀(ぎん)、精錡(とたん)、鉛錫(なまりすゞ)、水銀(みづかね)、コバルト、砒石(ひせき)、アンチモ二 ー、及(およ)びビスモート是(これ)なり、     黄金(わうごん)、 黄金(わうごん)は、金属(きんぞく)の至貴(しき)なるものとす、大約(たいやく)金塵(きんぢん)と号(ごう) する砂粒(しやりう)の如きものにて純(ぢゆん)なる者を得(う)、塊(くわい)をな して産出(さんしゆつ)するもの甚(はなは)だ稀(まれ)なり、適(たま〳〵)これあるも重(ちよう) 量(りやう)一二ポントを過(すぐ)る能(あた)はず、その産出の地方左の 如し○アシア洲(しう)、此洲(このしう)金(きん)を産(さん)する地(ち)多(おほ)し、西方(せいはう) シベリヤを殊(こと)に多(おほ)しとす、ユーラル山下(さんか)の砿坑(くわう〳〵) も産出(さんしゆつ)甚(はなは)だ多(おほ)し、 皇国(くわうこく)黄金(わうごん)の多量(たりやう)を出(いだ)す、  ○エウロツパ洲、此|洲(しう)金(きん)を産(さん)する地(ち)甚(はなは)だ多(おほ) し、しかれども多量(たりやう)の金(きん)を産(さん)するもの一所(いつしよ)あら ず、オーストリヤのキシムニズ山(さん)は此洲(このしう)中他(ちうた)の 黄金(わうごん)砿山(くわうざん)に超絶(てうぜつ)せり○アフリカ洲(しう)、此洲(このしう)黄(わう) 金(ごん)を出(いだ)す事|大(おほ)いなりとす、皆(みな)河畔(かはん)の山崖(さんがい)より漂(ひやう) 出(しゆつ)するものなり、此洲(このしう)の西部(せいぶ)コン山(さん)、ニゲル河(が)殊(こと) に之を得(う)る事(こと)多し、また東方(とうばう)の海岸(かいがん)に於ても然(しか) り、○北(きた)アメリカ洲(しう)、英国(えいこく)の属地(ぞくち)カナダに於て、 少量(しやうりやう)の金(きん)を得(え)たり、また合衆国(がうしやうこく)に二部(にぶ)の黄金地(わうごんち) 方(はう)あり、即(すなは)ちアベレンチエーン及(およ)びカリホルニ ヤ是なり、アベレンチエーンの黄金(わうごん)地方(ちはう)はウイ ルジニヤのラバンノツク河(が)よりアラバマのク ーサに到(いた)るカリホルニヤの黄金(わうごん)地方(ちはう)はサクラ ンメントとサン、ジョークインとの大谷(たいこく)にあり て、大約(たいやく)中数(ちうすう)六十里の広(ひろ)さを以(もつ)て、南北(なんぼく)五百里の 間(あいだ)に綿亘(めんたん)す、この地(ち)の諸(しょ)砿山(くわうざん)は世界中(せかいちう)最(もつと)も産出(さんしゆつ) の多(おほ)きものに属(ぞく)す、年々(ねん〳〵)大約(たいやく)五千万|弗(どる)の黄金(わうごん)を 出(いだ)すと云ふ、またメキシコ諸部(しよぶ)大量(だいりやう)の金(きん)を出(いだ)す、 中央(ちうわう)アメリカも亦(また)然(しか)り、○南(みなみ)アメリカ洲(しう)、 此洲(このしう) の黄金(わうごん)を出(いだ)す地(ち)は、アンデス山下(さんか)の全地(ぜんち)にあり、 ○オーセニヤ、オーストラリヤの金(きん)を産(さん)する 事の多量(たりやう)なる、普天下(ふてんか)に於てカリホルニヤの次(つぎ) に居(を)る、その産出(さんしゆつ)の地(ち)は、此(この)洲(しう)の東南(とうなん)の部(ぶ)にあつ て、年々(ねん〳〵)産出(さんしゆつ)の多寡(たくわ)、殆(ほとん)ど四千万|弗(どる)に至(いた)ると云ふ、 アシアチカ、アーチペレーゴ諸島(しよとう)多(おほ)く金(きん)を出(いだ)す、 その中(うち)ボルネヲ、セレベス、スモタラ殊(こと)に多(おほ)し    白金(はつきん)、 白金(はつきん)は灰白(くわいはく)なる金属(きんそく)にして、最(もつと)も稀(まれ)にして価(あたひ)の 貴(たつと)き事、黄金(わうごん)よりも勝(まさ)れり、その産出(さんしゆつ)する黄金(わうごん)に 混合(こんがう)す、此 金(かね)は南(みなみ)アメリカの黄金(わうごん)漂出(ひやうしゆつ)の地(ち)に於 て之を得(う)る事あり、またユーラル山(さん)に於て多量(たりやう) の白金(はつきん)を産(さん)す、しかれども猶輸出の貨物となす に足らずと云ふ    銀(ぎん)、 銀(ぎん)はその純(ぢゆん)なる物(もの)を産出(さんしゆつ)し、またその大塊(たいくわい)を得(う) る事あり、また黄金(わうごん)、銅(あかゞね)、砒石(ひせき)、硫黄(いわう)を混(こん)ずるを見(み)る、 其 産出(さんしゆつ)の地方(ちはう)次(つぎ)の如し、○北(きた)アメリカ洲(しう) 合衆(がつしゆう) 国(こく)銀山(ぎんさん)あらず、此|地(ち)より出(いづ)るものは、皆カリホル ニヤの金(きん)に混(こん)ずるものに係(かゝ)る、また鈆砿中(えんくわうちう)より 少量(しやうりやう)の銀(ぎん)を出(いだ)す、○メキシコの銀山(ぎんざん)は天下産出(てんかさんしゆつ) の最(もつと)も多(おほ)きものとす、年々(ねん〳〵)二千八百万|弗(どる)の多寡(たくわ) を出(いだ)すと云ふ、○南(みなみ)アメリカ洲(しう)、此|洲銀(しうぎん)を産出(さんしゆつ) する國(くに)はベーリユ、ポリヴイア、チリ、是なり○他(た) 洲(しう)また多(おほ)くの銀(ぎん)を産(さん)すといへども、之をアメリ カに比較(ひかく)すれば甚(はなは)だ僅(わづ)かなりとす、○ホンガリ ーのスチュムニズ、スペーンのキルムニズは、エウ ロツパ洲(しう)の中にて最(もつと)も大(おほ)いなる砿山(くわうざん)なり、    鉄(てつ) 鉄(てつ)は金属中(きんぞくちう)|至要(しよう)のものにして、且何(かついずれ)の地(ち)を論(ろん)せ す産(さん)するものにして、地殻(ちかく)の成分百分の二に居 ると云ふ、就中(なかんづく)|最(もつと)も多(おほ)く産出(さんしゆつ)する地(ち)は、合衆國(がつしゆうこく)|及(およ) びエウロツパなり、また合衆國(がつしゆうこく)に於て其|製造(せいぞう)に 有名(いうめい)なる國(くに)はマサチュセツトと、コンネクチコツ ト、ニュ〻ヨーク、ニューゼルシー、ペンシルヘニヤ、マ リーランド、ヴイルジニヤ、オハイオ、ケンチユキー、 テンネント及びミツソリー是なり○近来有名(きんらいいうめい) となれる此|邦(はう)の鉄山(てつさん)は、殆(ほとん)ど光煇(くわうき)ある鉄砿(てつくわう) より成(な)りて、其|高(たか)さ一千五百尺あり、また合衆国(がつしやうこく) のホワイトネーといへる人(ひと)、一千八百五十四年 に於て、諸州(しよしう)の鉱山(くわうさん)より産(さん)する所の鉄(てつ)を算定(さんてい)せ しに、合衆国(がつしやうこく)の諸砿山(しよくわうさん)より一百万トン、英國より は三百万トン、エウロツパ大洲(たいしう)に於て一百八十 一万七千トンと出(いだ)すといへり、    銅(あかゞね) 此金(このかね)は鉄(てつ)に次(つぎ)て世用(せいよう)を為(な)すものなり、假今鉄(たとへてつ)の 如く多(おほ)からずといへども、地球(ちきう)の各地(かくち)に於て之 を得(う)○此|金(かね)は純質(ぢゆんしつ)の塊(くわい)、其|重量数(ちようりやうす)トンなるもの を得(う)る事あり、○ソツペリオル湖(こ)の岸北方(きたほつほはう)ミチ  ガンの砿山(くわうざん)は、独(ひとり)|合衆国(がつしやうこく)に於て最(もつと)も多(おほ)く銅(あかゞね)を 産(さん)ずるのみならず、且単純(かつたんぢゆん)なるものを出(いだ)す、此地(このち) より出(いだ)す銅(あかゞね)は、其|塊(くわい)に彫刻(てうこく)して殆(ほとん)ど純(ぢゆん)なる者 にして、其|重量(めかた)|若干(そくばく)トン有(あ)るを記せり、○北アメ リカ洲(しう)の最(もつと)も有名(いうめい)なる銅(あかゞね)|産出(さんしゆつ)の地(ち)は、チリにあ り、エウロツパにては、英國|最(もつと)も多(おほ)く銅(あかゞね)を出(いだ)す、こ の二地(にち)の出(いだ)す所(ところ)は、天下(てんか)に於て費(ついや)す所(ところ)の殆(ほとん)ど半(なかば) を供(きよう)するに足(た)る、 皇国(くわうこく)、オーストラリヤマラ イシヤの諸島(しよとう)、また多(おほ)く銅(あかゞね)を出(いだ)す     精錡(とたん)、 精錡(とたん)は諸国(しよこく)之を得(う)るもの多(おほ)し、此金(このかね)銅(あかゞね)に和(くわ)すれ は黄銅(しんちう)となるべし、○精錡(とたん)を産(さん)する砿山(くわうさん)の最(もつと)も 有名(いうめい)なるものは、ロシヤ及(およ)びベルジュームにあり、     鈆(なまり)、 鉛(なまり)は産出(さんしゆつ)の多少(たしやう)差異(さゐ)ありといへども、何(いつれ)の国(くに)を 論(ろん)せず、皆(みな)之を得(う)、就中(なかんづく)有名(いうめい)なる国(くに)は合衆国(かつしやうこく)英国 及(およ)びスペーンなり     錫(すゞ) 錫(すゞ)を産(さん)する国(くに)甚(はなは)だ稀(まれ)なり、之を産出(さんしゆつ)する有名(いうめい)の 地(ち)は、英国に於てハコルンウエル、東(とう)インデヤの ベンカ及(およ)びアシア近傍(きんはう)の諸海島(しよかいとう)なり、     水銀(みつかね)、 天下(てんか)水銀(みづかね)を産出(さんしゆつ)する最大(さいだい)なる砿山(くわうざん)は、北(きた)アメリ カのカリホルニヤ、南(みなみ)アメリカのペーリユ、南方(なんばう) オーストリヤのオドリヤ及(およ)びスペーン国(こく)のカ ードに近(ちか)きアルマダン是(これ)なり、   コバルト 此(この)金(かね)は大約(たいやく)硝子(びいどろ)或(あるい)は陶器(せともの)に青色(せいしよく)を与(あた)ふるに用(もち) ゆるものなり、此(この)金(かね)はただゼルマン国(こく)に産(さん)す、   砒石(ひせき)、 此(この)金(かね)はゼルマン国(こく)及(およ)び地中海(ちちうかい)近傍(きんはう)諸国(しよこく)より産(さん) 出(しゆつ)す、此(この)金(かね)の鉱石(くわうせき)を以(もつ)て、画家(ぐわか)光輝(くわうき)ある色(いろ)を製(せい)す、   アンチモニー及(およ)びビスモート 此二金は粘力(ねんりよく)甚(はなは)だ多(おほ)からず、其用(そのよう)は鈆(なまり)に和(くわ)して 活字版(くわつじばん)を製(せい)するに供(きよう)す、此(この)金(かね)はゼルマン国(こく)の産(さん) 物(ぶつ)にして他邦(たはう)之(これ)を出(いだ)すなし、   煤炭(せきたん) 砿物(くわうぶつ)之に火(ひ)を点(てん)ずれば、よく燃焼するものあり、 之を着火(ちゃくくわ)砿物(くわうぶつ)といふ、この中(なか)最(もつと)も較著(かくちよ)なるもの 、煤炭(せきたん)、硫黄(いわう)、ビッチュメン、及(およ)び琥珀(こはく)なり、就中(なかんづく) 煤炭(せきたん)は大(おほ)いに世(よ)に功用(こうよう)あるものなり砿学家(くわうかくか)之 を分(わか)つて三類(さんるい)とす、即(すなは)ち堅硬(けんかう)煤炭(ばいたん)、瀝青(れきせい)煤炭(ばいたん)木化(ぼくくわ) 煤炭(ばいたん)是なり、煤炭(せきたん)の産出(さんしゆつ)する地(ち)は、北(きた)アメリカ洲(しう) 英國(えいこく)の属部(ぞくぶ)、合衆国(かつしやうこく)、南(みなみ)アメリカ洲(しう)、大(だい)ブリテン及(およ) び支那殊(しなこと)に多(おほ)く産出(さんしゆつ)す、煤炭砿山(せきたんくわうさん)の最(もつと)も大(おほ)いな るものは合衆国(がつしゆうこく)にあり    光炭(くわうたん)、 光炭(くわうたん)は煤炭(せきたん)の別種(べつしゆ)にして、喪服(もふく)の衣襟(えり)、指環(ゆびわ)、或(あるい)は 手釧等(たまきどう)に付(つく)るに供(きよう)す、仏國|南部(なんぶ)オーラの一霄(いつしよ)に て、光炭(くわうたん)を以(もつ)て器(うつは)を制(せい)する人(ひと)、一千二百人あり、其 用(もち)ふる多寡(たくわ)、年々(ねん〳〵)十萬ホンドに至(いた)ると云ふ、    硫黄(いわう) 硫黄(いわう)は単純(たんぢゆん)の元素(げんそ)にして、能く燃焼(ねんしやう)するを以て、 また燃石(ねんせき)の名(な)あり、此|砿物(くわうぶつ)は大約火山(たいやくくわさん)の産出(さんしゆつ)に 係(かゝ)る、故(ゆゑ)にシヽリー、アイスランド等の國(くに)に多(おお)し、     ビツチユメン、 此砿物(このくわうぶつ)は時(とき)あつて堅硬(けんこう)なるものあり、また時(とき)あ つて柔軟(じうねん)なる事油(あぶら)の如きを見(み)る、その堅硬(けんこう)なる ものを毉(くろごわく)と号(ごう)す、北高海(ほつこうかい)|近傍(きんはう)にビツチュメンの泉(いづみ) 多(おほ)し、またビルマのラングーン近傍(きんはう)のヒッチュメン 泉(せん)は、年々(ねん〳〵)十万ホグスヘツトを出(いだ)すと云ふ、    琥珀(こはく) 琥珀(こはく)は樹脂質(じゆししつ)ある砿物(くわうぶつ)にして、多(おほ)く装飾(かざり)に用(もち)ふ、 其|産出(さんしゆつ)の地(ち)はロシア及(およ)びバーチク海(かい)沿海(えんかい)の地(ち) を尤(ゆう)なる所(ところ)とす、    第十七章      植物(しよくぶつ)及(およ)び其数(そのかず)、 地球上(ちきうじやう)の各地(かくち)殆(ほとん)ど植物(しよくぶつ)の蕃殖(はんしよく)せざる所(ところ)なし、し かれども各(おの〳〵)其|水土(すいど)風気(ふうき)に適(てき)するものありて、必(かなら) ず其|地(ち)を択(ゑら)んで生々(せい〳〵)を遂(と)ぐ、○植物(しよくぶつ)の性(せい)及び成(せい) 分(ぶん)を検査(けんさ)する事は、天然(てんねん)地理学(ちりがく)の関(あづか)る所(ところ)にあら ざれば、今(いま)は只(たゞ)植物(しよくぶつ)の地理(ちり)に関渉(くわんせふ)する所(ところ)の事(こと)を 説(とか)んとす、○凡(およ)そ人(ひと)の能(よ)く知(し)る所(ところ)の植物(しよくぶつ)の員数(かず)、 ヒント氏の説(せつ)に拠(よ)れば、八万九千|種(しゆ)とす、しかる に稍(やゝ)験査(けんさ)を経(へ)たる国(くに)と、猶(なほ)未(いま)だ然らざる国(くに)とを 合算(がつさん)して、大約(たいやく)その全数(ぜんすう)は十三万三千|種(しゆ)に及(およ)ぶ べしといへり、かく植物(しよくぶつ)の衆多(しゆうた)なる中(なか)に、最(もつと)も世(よ) に要用(えうよう)なるものは人(ひと)の衣食(いしよく)に備(そな)ふべきものに てその食物(しよくもつ)となすべきものは穀物(こくもつ)、果樹(くわぢゆ)、芋蕷(うしよ)、の 類(るい)是なり、また衣服(いふく)となすべきもの最(もつと)も要用(えうよう) なるは、綿(わた)、麻(あさ)、亜麻(あま)等是(とうこれ)なり、    熱帯(ねったい)の植物(しよくぶつ) 凡(およ)そ植物(しよくぶつ)は其|類(るい)に従(したが)ひて、其|各(おの〳〵)|初生(しよせい)の地(ち)ありて、 或(あるい)は天然(てんねん)、或(あるい)は人為(しんゐ)に依(よつ)て、遠近(ゑんきん)に其|類(るい)を広(ひろ)むと いへども、其|地理(ちり)に関渉(くわんしよう)して自(みづか)ら其所(そのところ)に従(したが)ひて 其|類(るい)を異(こと)にするは、大約温度(だいやくおんど)の差異(さゐ)に従(したが)ふもの と考(かんが)へたり、温度(おんど)の植物(しよくぶつ)に関係(くわんけい)する㕝の大(おお)いな るは、熱帯温帯(ねつたいおんたい)、寒帯(かんたい)の植物(しよくふつ)、各異(かくゐ)あるを以(もつ)て窺(うか〳〵)ひ 見(み)るべし、抑(そも〳〵)|熱帯(ねったい)の植物(しよくふつ)は最(もつと)も其種属衆多(そのしゆそくしやうた)にし て、其色(そのいろ)の鮮美(せんび)なる、其形状の魅偉(くわいゐ)なる、其|香(かう)の馥(ふく) 郁(いく)たる、其|味(あぢ)の甘滑(かんこつ)なる、地球上他帯植物(ちきうしやうたたいしよくふつ)のよく 及(とよ)ぶ所にあらず、此|帯(たい)の産出(さんしゆつ)するもの、椰樹(やじゅ)、大蕉(おほはせう)、 甘蔗(かんしよ)、コフィー、香料(かうりやう)、米(こめ)、黍(きび)、藕粉(ぐうふん)、カツサヴァ根(こん)、其|他(た)甘(かん) 美(ひ)なる果子(くだもの)数種(すしゆ)あり、家屋(かおく)の造営(ざうえい)に備(そな)ふべき木(もく) 材(ざい)また衆多(しうた)あり、且(かつ)堅硬(けんこう)緻密(ちみつ)にして、諸器(しょき)に製(せい)す べき木材(もくざい)、また染料(せんりやう)となすべきもの、大抵(たいてい)此|帯(たい)よ り出(いづ)るに係(かゝ)るまた寒帯(かんたい)に在て矮小(わいしやう)なる灌木(くわんほく)を、 此|地(ち)に移(うつ)さば、喬樹(けうじゆ)となるべし、また此帯(このたい)に産(さん)す る香料(かうりやう)は、温帯(おんたい)人民(じんみん)の食用(しょくよう)に備(そな)ふるに甚(はなは)た大量(たいりやう) を輸出(ゆしゆつ)す、    温帯(おんたい)の植物(しょくぶつ)、 此|帯(たい)の植物(しょくぶつ)は、夏時(かじ)繁茂(はんも)すといへども、冬候(とうこう)至(いた)れ ば大約(たいやく)凋残(てうざん)して其|葉(は)を脱落(だつらく)す、しかるに樹(き)を生(せう) ずる事は衆多(しやうた)にして、槲樹(かしは)ヒツコリー、松樹(まつ)、槻樹(けやき)、 樅樹(もみ)、杉樹(すき)、鷄冠木(かへて)等(とう)あり、また大麦(おほむぎ)、小麦(こむぎ)、燕麦(からすむぎ)、裸麦(はだかむぎ)、 黍(きび)、諸蔬(しよそ)、園草(えんさう)の類(るい)、此|帯(たい)に在て能(よ)く蕃殖(はんしょく)す、また熱(ねつ) 帯(たい)近傍(きんばう)の暖地(だんち)に在て、橙(だい〳〵)、檸檬(まるぶしゆかん)、無花果(いちゞく)、橄欖(かんらん)、甘蔗(かんしよ)、ユ フィー、米等あり、之を二至(じし)線間(せんかん)の植物(しょくぶつ)と云ふ、    寒帯(かんたい)の植物(しょくぶつ)、 此|地(ち)には殆(ほとん)ど草木(さうもく)の生(せう)ずるなし、只(たゞ)樺樹(かばざくら)、椎樹(しい)、ア ルトル及び其|他(た)僅(わづ)かの樹類(じゅるい)あるのみ、灌木(くわんぼく)、蘚苔(こけ) 類(るい)、鳳尾草類(ひとつばるい)、石上(せきしやう)に生(せう)ず、野草(やさう)は只(たゞ)夏候(かこう)生(せう)ずるの み、此|帯(たい)の耕種(こうしゆ)は甚(はなは)だ稀少(きしやう)なり、適(たま〳〵)之あるも年間(ねんかん) 之を廃(はい)する時限(じげん)多(おほ)くして、夏候(かこう)数週日(すうしうじつ)のみなり、 此|候(こう)には日(ひ)暖(あたゝ)かにして、草木(さうもく)芽(め)を生(せう)じ、花(はな)を発(はつ)し、 果(み)を結(むす)び、また忽(たちま)ちに凋枯(てうこ)す、種殖(しゆしよく)の功(こう)を終(をふ)る僅(わづか) に六週日(ろくしゆうじつ)の間(あいだ)にあり、〇北極(ほつきよく)の地方(ちはう)温帯(おんたい)付近(ふきん)の 処(ところ)は、谿谷(けいこく)の間(あいだ)大麦(おほむぎ)、燕麦(からすむぎ)を生(せう)ず、北緯(ほくい)七十五|度(と)の 地(ち)に至(いた)つて初(はじ)めて耕種(こうしゆ)の業(げう)を廃(はい)するに至(いた)る、し かるに南半球(なんはんきう)に於ては、巳(すで)に五十九|度(ど)に至(いた)れば 草木(さうもく)既(すで)に跡(あと)をとゞめず、〇植物(しよくぶつ)は斯(かく)の如(ごと)く気候(きこう) に従(したが)ひて定処(ていしよ)ある外(ほか)に、別(べつ)に地(ち)に従(したが)ひて種(たね)を異(こと) にする事あり、即(すなは)ちオーストラリアの植物(しよくぶつ)は自(おのづか) ら其地(ち)に所(ところ)を定(さだ)むるがごときものあり、また南(みなみ)ア メリカの植物(しよくぶつ)は、北アメリカの植物(しよくぶつ)に異(こと)なるも のあり、新(しん)ゼーランドの植物(しよくふつ)は大ブリテンの植(しよく) 物(ふつ)に同(おな)じからざるあり、   地(ち)の高度(こうと)に従(したか)ひて植物(しよくふつ)の各異(かくゐ)、 地(ち)の高度(こうど)に随(したが)ひて植物(しょくふつ)の各異(かくゐ)なる事は、正(まさ)しく 緯度(ゐと)に随(したが)ひて、其|各異(かくゐ)あるの帙序(ついで)に同(おな)じ、故(ゆゑ)に二(じ) 至(し)線中(せんちう)の高山(こうざん)を見(み)るに、その山下(さんか)は椰樹(やじゅ)繁茂(はんも)し て、中間(ちうかん)は槲樹(かしは)、槻樹(けやき)、樅樹(もみ)等あり、其|頂(いたゞき)に近(ちか)ければ 駝(た)、河馬(かば)は只(たゞ)アフリカに生(せう)じ、ジンゴ、カンガル、鴨(かも) 觜々(しゝ)のオーストラリヤに産(さん)する、またアフリカ 洲(しう)二至(しし)線内(せんたい)の地(ち)に産(さん)するナイル河(が)の鰐魚(がくきょ)、バー ボン、オランオツタン、羝羊(ていよう)の数類(すうるい)は殊(こと)に他国(たこく)の ものより名(な)あり、     温帯(おんたい)の動物(どうぶつ)、 温帯(おんたい)は馬(うま)、驢(ろば)、牛(うし)、水牛(すいぎう)、鹿(しか)、羊(ひつじ)等の如き、草(くさ)を食(くら)ふ諸獣(しょじう) 及(およ)び数種(すうしゅ)の鳥(とり)、其|他(た)虫魚(ちうぎよ)の類(るい)の生々(せい〳〵)するに適(てき)す、 また豺狼(さいらう)、狐狸(こり)、羆熊(ひいう)、獺(うそ)等(とう)の肉(にく)を啖(くら)ふ動物(どうぶつ)あり、ま たアメリカとエウロツパの二洲(にしう)に於て温帯(おんたい)の 間(あいだ)に産出(さんしゆつ)する動物(とうぶつ)あり、即(すなは)ちアメリカにては鹿(しか)、 犂牛(かぎう)、コーガル、飛鼠(ひそ)、響尾蛇(けうびじや)、諸種(しょしゆ)の鷙鳥(してう)諸種(しよしゆ)の亀(かめ)、 是なり、エウロツパにては棕色熊(さうしよくいう)、豺狼(さいらう)、燕(つばめ)及(およ)び諸(しよ) 種(しゆ)の鷙鳥(してう)等(とう)之あり、また温帯(おんたい)中(ちう)林木(りんぼく)深密(しんみつ)の地(ち)は、 把虫(はちう)蚓類(いんるい)群集(ぐんしふ)して、多(おほ)く他(た)の動物(どうぶつ)の食餌(しょくじ)となる 所のものなるに、冬候(とうこう)至(いた)れば林木(りんぼく)枯凋(こてう)し、虫類(ちうるい)ま た死(し)し或(あるい)は蟄(ちつ)するが故(ゆゑ)に、之を食(しょく)となせし動物(どうぶつ) は、資養(しよう)の術(じゆつ)を失(うしな)ひて、遠(とほ)く暖地(だんち)に居(きよ)を移(うつ)すもの あり、動物(どうぶつ)また夏候(かこう)の間多(あいだおほ)くの食餌(しよくじ)を貯(たくは)へて、厳(げん) 冬(とう)の間洞穴(あいだどうけつ)の中(うち)に住(す)むものあり、或(あるい)は蟄(ちつ)して死(し) するが如く春暖(しゆんだん)の候到(こういた)るに及(およ)んで再(ふたゝ)び出来(いできた)る あり、また冬日(とうじつ)といへども自若(じじやく)として、其常(そのつね)を改(あらた) めざる動物(どうぶつ)あり、    北寒帯(ほくかんたい)の動物(どうぶつ)、 此帯(このたい)の動物(どうぶつ)は、種類甚(しゆるいはなは)だ少(すくな)しといへども、各類(かくるい)の 数(かず)は他帯(たたい)に比(ひ)すれば甚(はなは)だ大(おほ)いなり、即(すなは)ち鳥(とり)の海(かい) 嶋汀渚(とうていしよ)に聚集(しやう〳〵)する事、恰(あたか)も雲(くも)の如(ごと)く霧(きり)に似(に)たり、 魚(うを)もまた群々(ぐん〳〵)相聚(あひあつま)つてホツトソン港(こう)グリーン ランド及(およ)びアイスランドの海浜(かいひん)に充剏(じうじん)すまた 白熊(はくいう)、麋(ひ)、馴鹿(じゅんろく)、麝牛(じやきう)、白狐(はくこ)、北極兎(ほつきよくと)、レムミング等(とう)の奇(き) 獣(じう)あり、また海豹(あざらし)、鯨鯢(くじら)及(およ)びメジユラの衆多(しやうた)あり、 鳥(とり)は海鷹(かいよう)、渉水鳥(せふすいてう)の二三種(にさんしゅ)、また鴎(かもめ)、鳬(かも)、鵜等(うとう)の水禽(すいきん) 衆多(しやうた)あり、    地(ち)の高度(こうど)に随(したが)ひて動物(どうぶつ)の各異(かくゐ) 海水(かいすい)の平面(へいめん)より各地(かくち)の高度(こうど)に随(したが)ひて、産(さん)する所(ところ) の動物(どうぶつ)各異(かくゐ)なり、猶山(なほやま)の高度(こうど)に随(したが)ひて、植物(しょくぶつ)の異(ゐ) あるが如(ごと)し、較著(かくちよ)なる高山(こうざん)にては、山上(さんじやう)山下(さんか)其(その)中(ちう) 間(かん)に産出(さんしゆつ)する動物(どうぶつ)の各異(かくゐ)なる事、緯度(ゐど)を遂(お)ひて 其|種類(しゆるい)の差(さ)あるが如し、   人種(じんしゆ) 人類(じんるい)は地球上(ちきうしやう)の各地(かくち)に蔓延(まんえん)す、これ人体(じんたい)の結構(けつこう) は、他(た)の地(ち)を論(ろん)せず、よく其|風土(ふうど)に適(てき)するに足(た)れ るを以(もつ)てなり、人類(じんるい)は数族(すうぞく)に分(わか)るを以て、性理(せいり)学(がく) 者(しや)流(りう)の之を区別(くべつ)する事|数様(すうよう)あり、即(すなは)ちプリチヤ ルドといふ人書(ひとしよ)を著(あらは)して人類(じんるい)を三つに別(わか)てり、 その法(はう)毛髪(もうはつ)の色(いろ)に従(したが)へり、即(すなは)ち黒毛族(こくもうぞく)、紅毛族(こうもうぞく)及(およ) び白毛族(はくもうぞく)是なり、第一(だいいち)は、正(まさ)しく其|名(な)の如く、黒(くろ)き 髪(かみ)ある人種(じんしゆ)なり、第二(だいに)は棕色(さうしょく)、紫黒色(しこくしよく)、黄色(わうしよく)、紅色(かうしよく)、麻(ま) 黄色(わうしよく)の髪(かみ)ある人種(じんしゆ)、第三は白髪(はくはつ)にして眼(まなこ)赤(あか)き人(じん) 種(しゆ)を云ふ、またプリュメンバツチは有名なる性理(せいり) 学家(がくか)なるが、脳蓋骨(のうかいこつ)の形状(かたち)に依(よつ)て人類(じんるい)を五族(ごぞく)に 別(わか)てり、即(すなは)ちコーカシヤ民(みん、)蒙古民(もうこみん)、アメリカ民(みん)ア フリカ民(みん)及(およ)びマライ民(みん)是なり、今(いま)普天下(ふてんか)の人員(じんいん) 大約(およそ)十億(じうおく)あり、其内(そのうち)コーカシヤ民(みん)は四億(しおく)二千万、 蒙古民(もうこみん)は四億(しおく)六千万、アメリカ民(みん)は一千万、アフ リカ民(みん)は七千万、マライ民(みん)は四千万なりと云ふ、    言語(けんご) 言語(げんご)に依(よつ)てまた人類(じんるい)を区別(くべつ)すべし今(いま)数種(すしゆ)の国(こく) 語(ご)を集(あつ)め見(み)るに、各(おの〳〵)相同似(あひどうじ)するありて、其|起原(きげん)す る所は一種(いつしゅ)の語(ご)なるを知(し)りて是(これ)を一族(いちぞく)と定(さだ)め また相類(あいるい)するものを併合(へいがう)して是(これ)を二族(にぞく)と為(な)し 之を言語(げんご)の二大族(にだいぞく)と号(ごう)す、第一族(だいいちぞく)はセミチカ族(ぞく) 云ふ、ヘブリウ語(ご)アレメーン語|即(すなは)ちバビロニヤ 語(ご)シリヤ語(ご))アラビヤ語(ご)(エジオビヤ語(ご)是|族(ぞく)に近(ちか) し)是なり、第二(だいに)はインドエウロツヘーン族と云 ふ、即(すなは)ちエウロツパアシア諸国(しょこく)の言語(げんご)是(これ)に属(ぞく)す また之を分別(ふんべつ)して六種(ろくしゅ)と為(な)す第一(だいいち)サンスクリ ト語(ご)、インデア諸邦(しよはう)の方言(はうげん)皆(みな)此中(このうち)にあり、第二(だいに)、セ ント即(すなは)ちメードペレシカ語、ペルシア及(およ)びアル メメニヤ諸邦(しよはう)の方言(はうげん)都(すべ)て此語(このご)に属(ぞく)す、第三(だいさん)、グリ ーキ及(およ)びラチン語、即(すなは)ち同上(どうしやう)両国(りやうごく)に起原(きげん)せる諸(しよ) 邦(はう)の語(ご)、第(だい)四、スラホニカ語、ロシヤホーラン 【裏表紙】

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