FirstAuthors:17251
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{"target":"https://pubannotation.org/docs/sourcedb/FirstAuthors/sourceid/17251","sourcedb":"FirstAuthors","sourceid":"17251","text":"〈タイトル〉mTOR複合体1はミトコンドリアの分裂にかかわるタンパク質をコードするMTFP1遺伝子の翻訳の制御を介してミトコンドリアの動態および細胞の生存を制御する\r\n\r\n〈著 者〉勝村早恵1・Nahum Sonenberg 2・森田斉弘1\r\n〈著者所属〉1米国Texas大学Health Science Center,Department of Molecular Medicine,2カナダMcGill大学Department of Biochemistry\r\n〈著者email〉katsumura@uthscsa.edu(勝村早恵),moritam@uthscsa.edu(森田斉弘)\r\n\r\n〈対象論文〉\r\nmTOR controls mitochondrial dynamics and cell survival via MTFP1.\r\nMasahiro Morita, Julien Prudent, Kaustuv Basu, Vanessa Goyon, Sakie Katsumura, Laura Hulea, Dana Pearl, Nadeem Siddiqui, Stefan Strack, Shawn McGuirk, Julie St-Pierre, Ola Larsson, Ivan Topisirovic, Hojatollah Vali, Heidi M. McBride, John J. Bergeron, Nahum Sonenberg\r\nMolecular Cell, 67, 922-935.e5 (2017)\r\n\r\n〈要 約〉\r\n ミトコンドリアの動態および機能は増殖因子や栄養素などの細胞の内外からのシグナルにより制御されているが,その詳細な機構は解明されていない.この研究においては,mTOR複合体1がミトコンドリアの分裂にかかわるタンパク質をコードするMTFP1遺伝子の翻訳を促進することによりミトコンドリアの分裂およびアポトーシスを制御する機構の一端が明らかにされた.MTFP1はミトコンドリアの分裂にかかわるタンパク質であるDRP1のリン酸化およびミトコンドリアへの局在化にかかわり,mTOR阻害薬は翻訳の開始の抑制タンパク質である4E-BPを介してMTFP1遺伝子の翻訳を抑制しミトコンドリアの融合を促進した.mTOR阻害薬により処理された細胞においてMTFP1を過剰に発現させるとミトコンドリアの融合は阻害され,アポトーシスがひき起こされた.この研究により,mTOR複合体1はミトコンドリアの分裂をつかさどるMTFP1を介し,ミトコンドリアの動態だけでなく細胞の生存を決定することが明らかにされた.\r\n\r\nはじめに\r\n mTORは酵母からヒトまで保存されたセリン/スレオニンキナーゼであり,増殖因子,インスリン,栄養素,酸素など細胞の内外からのさまざまなシグナルを感知してタンパク質や脂質の合成など同化代謝を促進し,オートファジーなどの異化代謝を抑制することにより細胞の増殖を促進する1).mTORは機能の異なる2つのタンパク質複合体を形成する.mTOR複合体1はPI3K-AKT-TSC1シグナル伝達経路を介して成長因子およびインスリンなどの細胞外シグナルにより活性化され,また,小分子GTPaseであるRAGを介してアミノ酸などの細胞内シグナルにより活性化される.mTOR複合体1は翻訳などの同化代謝を促進し,オートファジーなどの異化代謝を抑制する.mTOR複合体2はAktなどのAGCキナーゼを介して細胞骨格,細胞の生存,糖および脂質の代謝を制御する.\r\n mTOR複合体1は,翻訳開始因子eIF4Eの結合タンパク質である4E-BP,S6K,ULK1といった複数の下流エフェクターを介して同化代謝および異化代謝を制御する2).4E-BPは翻訳の抑制タンパク質であり,mRNAの5'キャップ構造の結合タンパク質であるeIF4Eと結合してeIF4F複合体の形成を抑制する.eIF4F複合体はeIF4Aや足場タンパク質eIF4Gから構成され,リボソームのmRNAへの動員を促進する.mTOR複合体1により4E-BPがリン酸化されると,4E-BPはeIF4Eから解離し,eIF4F複合体が形成され翻訳の開始が促進される.mTOR複合体1が活性化されると,リボソームが特定のmRNAへと動員され翻訳が促進される.この特定のmRNAとしてミトコンドリアタンパク質をコードするmRNAがもっとも多く同定されており,とくに,ミトコンドリアの形成,分裂,呼吸,ATPの産生にかかわるタンパク質をコードするmRNAが多く含まれる3).ミトコンドリアの分裂にかかわるタンパク質MTFP1はミトコンドリア内膜に存在し,その発現の抑制はミトコンドリアの融合を,過剰な発現はミトコンドリアの断片化をひき起こす4).MTFP1はDRP1を介してミトコンドリアの分裂を制御する.しかし,mTOR複合体1によるミトコンドリアの動態の制御機構については明らかにされていなかった.\r\n\r\n1.mTOR阻害剤によるミトコンドリアの伸長および分岐の促進\r\n トランスレイトーム解析によりmTORの下流において翻訳の制御をうけるmRNAを網羅的に探索したところ約500種類のmRNAが同定され,そのなかでもっとも多く同定されたのはミトコンドリアタンパク質をコードするmRNAであった3).以前に,筆者らは,mTOR複合体1が4E-BPを介してミトコンドリアタンパク質の翻訳を選択的に促進することにより,ATPの産生や呼吸などミトコンドリアの機能を活性化することを明らかにした5)(新着論文レビュー でも掲載).さらに,ミトコンドリアの機能と動態は関連することが報告されている6),このmTOR複合体1によるミトコンドリアの機能の制御機構について明らかにするため,mTOR阻害剤によるミトコンドリアの動態への影響を電子顕微鏡により観察し定量的に解析した.その結果,mTOR阻害剤により処理した細胞においてミトコンドリアの伸長および分岐が有意に認められた.さらに,細胞質あたりのミトコンドリアの総数および総量は減少し,先行の報告と同様に7),オートファゴソームの形成は促進された.この定量的な解析から,mTORはミトコンドリアの形態を制御することが明らかにされた.\r\n\r\n2.mTOR阻害剤によるMTFP1のタンパク質量およびDRP1のリン酸化の制御\r\n ミトコンドリアの動態は分裂と融合とのバランスにより維持される6).DRP1およびMTFP1はミトコンドリアの分裂にかかわることが,OPA1,MFN1,MFN2はミトコンドリアの内膜と外膜との融合にかかわることが知られている.DRP1はSer616がリン酸化されると活性化してミトコンドリアの分裂を促進し,Ser637がリン酸化されるとミトコンドリアへの局在およびミトコンドリアの分裂が抑制される6).mTOR阻害剤はMTFP1のタンパク質量を低下させ,DRP1のSer637のリン酸化を促進しSer616のリン酸化を抑制した.一方,OPA1およびMFN2のタンパク質量およびリン酸化はmTOR阻害剤による制御をうけなかった.この結果から,mTOR阻害剤はミトコンドリアの分裂にかかわるタンパク質を抑制することによりミトコンドリアの融合を促進することが明らかにされた.\r\n\r\n3.mTOR複合体1はミトコンドリアの分裂をひき起こす\r\n ラパマイシンとは異なり,mTOR阻害剤はmTOR複合体1およびmTOR複合体2を標的とする.RaptorはmTOR複合体1,RictorはmTOR複合体2に,特異的な構成タンパク質である.mTOR複合体1とmTOR複合体2のどちらがミトコンドリアの動態の制御にかかわるのかを明らかにするため,RaptorあるいはRictorを欠損させた.その結果,Raptorを欠損した細胞においてはミトコンドリアの伸長,ミトコンドリアへのDRP1の局在の抑制,DRP1のSer637のリン酸化の促進およびSer616のリン酸化の抑制などmTOR阻害剤を処理したときと同様の表現型が認められたが,Rictorを欠損した細胞においてこれらの表現型は認められなかった.mTOR複合体1は小分子量GTPaseであるRhebにより活性化され,RhebはTSC1-TSC2複合体により抑制されることが知られている1,8).TSC2を欠損した細胞をmTOR複合体1の活性化モデルとしたところ,ミトコンドリアの分裂,DRP1のSer637のリン酸化の抑制およびSer616のリン酸化の促進といった,Raptorを欠損した細胞とは逆の表現型が認められた.この結果から,ミトコンドリアの分裂はmTOR複合体1によりひき起こされることが明らかにされた.\r\n\r\n4.mTOR阻害剤によるミトコンドリアの伸長およびMTFP1遺伝子の翻訳の抑制には4E-BPが必要である\r\n mTOR複合体1がMTFP1およびDRP1を介してミトコンドリアの分裂を促進することが明らかにされたが,mTOR複合体1はおもに翻訳の開始の抑制タンパク質である4E-BPを介して翻訳を制御することから,ミトコンドリアの動態およびミトコンドリアの分裂における4E-BPの役割について調べた.その結果,4E-BPを欠損した細胞においては,野生型の細胞と比較してmTOR阻害剤によるミトコンドリアの伸長は軽度で分岐は認められず,DRP1のミトコンドリアからの遊離もみられなかった.野生型の細胞および4E-BPを欠損した細胞のどちらにおいても,mTOR阻害剤の処理によりオートファゴソームの形成がひき起こされた.\r\n さらに,ミトコンドリアの分裂にかかわる個々のタンパク質をコードする遺伝子の翻訳活性について調べるため,ポリソームプロファイリング法を実施した.この方法は,翻訳活性によりmRNAを分離してその量を定量化することが可能である.この解析により,mTOR阻害剤はMTFP1遺伝子の翻訳を抑制するがDRP1遺伝子の翻訳には影響しないという結果が得られた.また,ここまでの実験はマウス胎仔線維芽細胞を用いていたが,ヒトに由来するA375細胞においても同様の結果が得られた.この結果から,mTOR複合体1によるミトコンドリアの分裂の制御およびMTFP1遺伝子の翻訳の制御には4E-BPが必要であることが明らかにされた.\r\n\r\n5.mTOR複合体1-4E-BP-MTFP1シグナル伝達経路によるミトコンドリアの動態の制御\r\n mTOR阻害剤を処理した細胞における4E-BPに依存的なMTFP1のタンパク質量の減少とDRP1のリン酸化の制御との時系列について明らかにするため,レスキュー実験を実施した.MTFP1遺伝子の翻訳に対するmTOR阻害剤および4E-BPの影響を排除するため,5'側非翻訳領域を欠損させたMTFP1遺伝子を用いた.その結果,mTOR阻害剤は対照およびMTFP1を過剰に発現させた細胞において4E-BPのリン酸化を抑制したが,MTFP1を過剰に発現させた細胞においてMTFP1のタンパク質量を減少させなかった.MTFP1を過剰に発現させた細胞はmTOR阻害剤により処理してもDRP1のSer616およびSer637のリン酸化は影響をうけず,ミトコンドリアは断片化されたままであった.この結果から,MTFP1はmTOR複合体1-4E-BPシグナル伝達経路の下流においてミトコンドリアの動態の制御に重要な機能をはたすことが明らかにされた.\r\n\r\n6.mTOR複合体1-4E-BP-MTFP1シグナル伝達経路によるアポトーシスの制御\r\n 飢餓の状態においてミトコンドリアは伸長することによりオートファジーからのがれアポトーシスは回避されることが報告されている9).このことから,ミトコンドリアの伸長はアポトーシスから回避するための防御反応なのか,その機能的な意義について調べた.MTFP1を過剰に発現させた細胞においては,対照と比較してmTOR阻害剤は細胞の増殖を強く抑制した.また,MTFP1を過剰に発現させた細胞において,アポトーシスの指標であるポリ(ADPリボース)ポリメラーゼの分解が起こり,カスパーゼ3およびカスパーゼ7は活性化されていた.この結果から,mTOR複合体1-4E-BPシグナル伝達経路からMTFP1を脱共役することによりmTOR阻害剤によるミトコンドリアの融合を阻止すると,mTOR阻害剤により細胞の増殖が強く抑制されるだけでなく,アポトーシスがひき起こされることが明らかにされた.このことから,ミトコンドリアの動態の制御によりmTOR阻害薬の抗腫瘍効果を増強することが考えられ,mTOR阻害薬のさらなる臨床応用への可能性が示唆された.\r\n\r\nおわりに\r\n この研究においては,mTOR複合体1-4E-BP-MTFP1シグナル伝達経路を介してmTOR阻害剤によりミトコンドリアの分岐および融合がひき起こされることが明らかにされた(図1).MTFP1はミトコンドリア内膜に存在しミトコンドリアの分裂やDRP1のリン酸化にかかわることが知られているが,mTOR複合体1シグナルの下流における制御については未解明であった.この研究により,MTFP1遺伝子の翻訳およびDRP1の局在とリン酸化の制御は翻訳の開始の抑制タンパク質である4E-BPを介しており,mTOR複合体1がミトコンドリアの動態およびアポトーシスを制御していることが明らかにされた.しかしながら,MTFP1の詳細な機能については今後の研究が期待される.\r\n ミトコンドリアの動態は分裂と融合とのバランスにより維持されるが,細胞の種類や組織の状態により大きく異なっている.がん細胞においては分裂が促進され,断片化したミトコンドリアが多くみられる10).今回の研究による,さまざまながんにおいて活性化されているmTOR複合体1-4E-BPシグナル伝達経路の下流においてMTFP1およびDRP1がミトコンドリアの動態およびアポトーシスの制御の一端を担うという知見は,今後のがん治療の発展のうえで重要であると考えられる.\r\n 現在,mTOR阻害剤はさまざまながんにおいて第I相および第II相の臨床試験が進められているが,その作用は細胞の増殖の抑制であり,がん細胞にアポトーシスをひき起こす効果は低いと考えられている.mTOR阻害剤によるがんの治療は,ミトコンドリアの伸長を促進することによりがん細胞の生存を高める可能性もある.実際に,mTOR阻害剤に耐性のがん細胞も単離されている11).今回の研究による,mTOR阻害薬により伸長したミトコンドリアをMTFP1の過剰な発現により断片化しアポトーシスをひき起こすという知見は,新たな抗腫瘍薬を創出し新たな治療戦略を提供する可能性がある.\r\n\r\n〈文 献〉\r\n 1) Saxton, R. A. \u0026 Sabatini, D. M.: mTOR signaling in growth, metabolism, and disease. Cell, 168, 960-976 (2017)\r\n 2) Sonenberg, N. \u0026 Hinnebusch, A. G.: Regulation of translation initiation in eukaryotes: mechanisms and biological targets. Cell, 136, 731-745 (2009)\r\n 3) Larsson, O., Morita, M., Topisirovic, I. et al.: Distinct perturbation of the translatome by the antidiabetic drug metformin. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 109, 8977-8982 (2012)\r\n 4) Tondera, D., Czauderna, F., Paulick, K. et al.: The mitochondrial protein MTP18 contributes to mitochondrial fission in mammalian cells. J. Cell Sci., 118, 3049-3059 (2005)\r\n 5) Morita, M., Gravel, S. P., Chenard, V. et al.: mTORC1 controls mitochondrial activity and biogenesis through 4E-BP-dependent translational regulation. Cell Metab., 18, 698-711 (2013) [新着論文レビュー]\r\n 6) Friedman, J. R. \u0026 Nunnari, J.: Mitochondrial form and function. Nature, 505, 335-343 (2014)\r\n 7) Thoreen, C. C., Kang, S. A., Chang, J. W. et al.: An ATP-competitive mammalian target of rapamycin inhibitor reveals rapamycin-resistant functions of mTORC1. J. Biol. Chem., 284, 8023-8032 (2009)\r\n 8) Morita, M., Gravel, S. P., Hulea, L. et al.: mTOR coordinates protein synthesis, mitochondrial activity and proliferation. Cell Cycle, 14, 473-480 (2015)\r\n 9) Gomes, L. C., Di Benedetto, G. \u0026 Scorrano, L.: During autophagy mitochondria elongate, are spared from degradation and sustain cell viability. Nat. Cell Biol., 13, 589-598 (2011)\r\n10) Vyas, S., Zaganjor, E. \u0026 Haigis, M. C.: Mitochondria and cancer. Cell, 166, 555-566 (2016)\r\n11) Alain, T., Morita, M., Fonseca, B. D. et al.: eIF4E/4E-BP ratio predicts the efficacy of mTOR targeted therapies. Cancer Res., 72, 6468-6476 (2012)\r\n\r\nGEO\r\nKEGG\r\n化合物\r\nアミノ酸\r\n抗体\r\nパスウェイ解析\r\n創薬\r\nBioconductor\r\n\r\n〈著者プロフィール〉\r\n勝村 早恵(Sakie Katsumura)\r\n略歴:2017年 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科博士課程 修了,同年より米国Texas大学Health Science Center博士研究員.\r\n研究テーマ:mTORに関連した疾患などにおける代謝の制御機構.\r\n関心事:がんにおける代謝の制御機構.\r\n\r\nNahum Sonenberg\r\nカナダMcGill大学 教授.\r\n\r\n森田 斉弘(Masahiro Morita)\r\n米国Texas大学Health Science Center助教授.\r\n\r\n〈図説明〉\r\n図1 mTOR複合体1によるミトコンドリアの分裂およびアポトーシスの制御\r\n(a)増殖している細胞においては,mTOR複合体1の下流にて,タンパク質の合成,ミトコンドリアの分裂,オートファジーなどが制御されている.ミトコンドリアタンパク質をコードする遺伝子の翻訳が活性化されると,ミトコンドリアにおけるATPの産生が上昇しタンパク質の合成に必要とされるATPが供給される.\r\n(b)mTOR阻害剤はmTOR複合体1の機能を阻害するため,翻訳は抑制され,ミトコンドリアは伸長し,オートファジーは活性化する.伸長したミトコンドリアはオートファジーからのがれて細胞は生存が可能になる.\r\n(c)mTOR阻害剤を処理した細胞においてMTFP1を過剰に発現させると,伸長したミトコンドリアは断片化されアポトーシスがひき起こされた.\r\n","tracks":[]}