PubMed-jpn:33159688 JSONTXT

1. 複数種の共存には適応度の種間差を最小にする均等化機構が必要だが、これは負の種間相互作用と比べて負の種内相互作用を相対的に強める安定化機構と相補的に働く.我々は種間順位制における種内競争と種間競争の相対的強度を測定する理論的な枠組みを構築し,北海道の河川に同所的に生息するイワナ属2種 (オショロコマ Salvelinus malmaおよびアメマス S. leucomaenis) に適用した.両種は流下する水生昆虫類を摂食するための定位場所をめぐって争い,密度依存的な成長率と生存率を示すことが知られている. これら2種のイワナが同所的に生息する北海道幌尻沢の2つの淵において、2年にわたりシュノーケリングによる潜水観察を行い,両種合計71個体による761回の攻撃行動を記録した.3つの手法で推定した個体の順位はいずれも魚種には影響を受けず,ほぼ体サイズによって決まっていた.この結果は各淵における最優位個体の除去実験によっても支持された. 同様に指数的ランダムグラフモデル (exponential random graph modeling) によるソーシャルネットワーク分析でも、一方の魚種が優位という結果は得られなかった.一方、体サイズで上回る上位の個体は、次の順位の個体を頻繁に攻撃する傾向が認められた. これらの結果は、同所的空間スケールでの餌資源をめぐる争いにおいて両種が生態的に同等な関係にあることを示す.同じ場所での4年にわたる調査でも、両種の生息密度は比較的安定で成長速度も類似しており、この事実もこの推論を支持する.ただし,混生域のオショロコマ個体数の比率は29 %とアメマスよりも少ないことは適応度に種間差があることを意味するかもしれない. 同時に行った形態計測と摂食行動の詳細な観察によって、両種の適応度を均衡させるメカニズムも明らかになった.つまりオショロコマは下顎形態を変化させる適応(形質置換)により,流下昆虫の減少期には底生動物を直接ついばむ摂食スタイルに容易にシフトし,アメマスとの直接的な攻撃を回避しつつ餌資源を効率的に利用していた. これらの複数の証拠は、局所的な空間スケールにおいて生態的に同等な2種の適応度の差はわずかで,この均等化機構と資源分割が生む適度な安定化機構とが相まって共存が促進されていることを示している.この研究で提唱した理論的枠組みは,種間競争と種内競争の相対的な強さを評価する際に有用であり,生態学的なトレードオフに関する情報と併せることで複数種の共存メカニズム解明がさらに進むことが期待される.

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