@Toyofumi Fujiwara:00298 / 1480-1482
298 遺伝性膵炎
○ 概要
1.概要
遺伝性膵炎とは、遺伝により慢性膵炎が多発する稀な疾病である。遺伝性膵炎の定義としてGrossは、①血縁者に3人以上の膵炎症例を認め、②若年発症、③大量飲酒など慢性膵炎の成因と考えられるものが認められず、④2世代以上で患者が発生していることを挙げている。我が国では少子化に伴い明確な家族歴を得ることが困難なため、厚生労働省難治性膵疾患に関する調査研究班の策定した臨床診断基準に基づき診断される。
2.原因
原因遺伝子変異として、カチオニックトリプシノーゲン(PRSS1)遺伝子変異が約4割、膵分泌性トリプシンインヒビター(SPINK1)遺伝子変異が約3割、その他・不明が約3割とされる。膵炎発症の第一段階は、膵腺房細胞内でのトリプシノーゲンの異所性活性化である。生体内には異所性のトリプシノーゲン活性化、さらに活性化したトリプシンを介する他の消化酵素の活性化による自己消化から膵臓を守るための防御機構が存在している。PRSS1遺伝子異常により、トリプシンの活性化・不活性化のアンバランスが生じるとトリプシンの持続的活性化が生じ、膵炎を発症すると考えられている。しかしながら、SPINK遺伝子における最多の変異(p.N34S変異)による膵炎発症機序は解明されておらず、また3割の家系では原因遺伝子異常を認めず、発病機構は明らかではない。
3.症状
発症は10歳以下が多く、幼児期より腹痛、悪心、嘔吐、下痢などの急性膵炎様発作を反復し、多くは慢性膵炎へと進行し、膵外分泌機能不全や糖尿病を高率に合併する。頻回な膵炎発作のための入院や疼痛コントロールのために膵臓手術が必要となる症例も多い。
4.治療法
疼痛のコントロールと、膵内外分泌障害に対する補充療法といった対症療法にとどまり、根治的治療はない。
5.予後
一般の慢性膵炎に比べて遺伝性膵炎の発症が幼少時と若く有病期間が長いことや、炎症が反復・持続し高度となりやすいため、膵外分泌機能不全や糖尿病を高率に合併し、QOLは著しく低下する。さらに遺伝性膵炎患者の膵癌発症率は一般人口のそれと比べて、約50倍から90倍と高率である。我が国における全国調査においても、遺伝性膵炎82家系中14家系(17%)に膵癌を認めている。
○ 要件の判定に必要な事項
患者数
約300~400人
発病の機構
不明(主にトリプシンの活性化・不活性化に関する遺伝子異常によることが想定されている。)
効果的な治療方法
未確立(膵外分泌及び内分泌機能不全に対する対症療法にとどまる。)
長期の療養
必要
診断基準
あり(研究班作成の診断基準あり。)
重症度分類
急性膵炎発作を直近1年に1回以上起こしている場合を重症とし、対象とする。
○ 情報提供元
「難治性膵疾患に関する調査研究」
研究代表者 近畿大学 教授 竹山宜典
<診断基準>
再発性急性膵炎あるいは慢性膵炎(確診及び準確診)症例で、以下の①~④の4項目のうち①を満たす場合、あるいは②、③、④の全てを満たす場合、遺伝性膵炎と診断される。
①カチオニックトリプシノーゲン(PRSS1)遺伝子のp.R122Hないしp.N29I変異が認められる
②世代にかかわらず、膵炎患者2人以上の家族歴がある
③少なくとも1人の膵炎患者は、大量飲酒など慢性膵炎の成因と考えられるものが認められない
④単一世代の場合、少なくとも1人の患者は40歳以下で発症している
<それぞれの定義>
急性膵炎
上腹部に急性腹痛発作と圧痛がある。
血中又は尿中に水酵素の上昇がある。
超音波、CT又はMRIで膵に急性膵炎に伴う異常所見がある。
上記3項目中2項目以上を満たし、他の膵疾患及び急性腹症を除外したものを急性膵炎と診断する。
注:膵酵素は膵特異性の高いもの(膵アミラーゼ、リパーゼなど)を測定することが望ましい。
再発性急性膵炎
慢性膵炎の診断基準を満たさず、急性膵炎発作を複数回反復するものである。多くは微小胆石によるものと推測されているが、遺伝性膵炎の一部も含まれると考えられる。
慢性膵炎
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