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280 巨大動静脈奇形(頚部顔面又は四肢病変) ○ 概要 1.概要 巨大動静脈奇形(頚部顔面・四肢病変)は、顔面・口腔・咽喉頭・頚部又は四肢のうち一肢の広範囲に発症する巨大腫瘤性の動静脈形成異常である。 動静脈奇形(AVM)は胎生期における脈管形成の異常であり、病変内に動静脈短絡(シャント)を単一あるいは複数有し、拡張・蛇行した異常血管の増生を伴う高流速血管性病変である。先天異常の一種と考えられるが、学童期や成人後の後天的な発症も少なくない。単一組織内で辺縁明瞭に限局するものから、辺縁不明瞭で複数臓器にびまん性に分布するものまで様々な病変があるが、びまん性巨大病変は難治で多種の障害を引き起こす。病状は加齢、妊娠、外傷などの要因により進行し、巨大なものでは心不全に至る。 なかでも頚部顔面巨大動静脈奇形(頚部顔面の広範囲にわたる動静脈奇形)は、気道圧迫、摂食・嚥下困難など生命に影響を及ぼし、四肢巨大動静脈奇形(一肢のほぼ全体にわたる動静脈奇形)は、重度の持続的疼痛、患肢の虚血壊死、四肢機能不全などを来す。さらに両者ともに重要な神経、血管や主要臓器と絡み合って治療困難であり、進行に伴い心不全、致死的出血などを来すことから、他の病変とは別の疾患概念を有する。 治療法としては主に外科的切除と血管内治療(塞栓術、硬化療法)が選択されるが、巨大動静脈奇形(頚部顔面・四肢病変)では病変の再発進行が早く、治療効果は一時的となり、むしろ悪化にいたる場合もある。四肢の小病変では患肢切断により病変除去が可能となる場合もあるが、四肢巨大動静脈奇形は股関節や肩関節付近まで病変が及ぶため患肢切断術自体に致死的大量出血の危険性があり、完治は不可能である。頚部顔面巨大動静脈奇形は切断不能であることは自明であり、広範囲切除は致死的出血や顔面・鼻腔・口腔・頚部の重要機能の喪失につながりうるため、これも完治は不可能である。巨大動静脈奇形(頚部顔面・四肢病変)は、高度難治性に進行し、大量出血や心不全による致死的な病態もあるため、対症療法も含めて生涯にわたる長期療養を必要とする。 なお脳・脊髄といった中枢神経系が主体の動静脈奇形はそれ以外の部位とは診断・経過・治療法が異なっており、指定難病としては頚部顔面・四肢の巨大動静脈奇形を対象とする。 2.原因  先天性病変。胎生期における脈管形成の異常とされているが、発生原因は不明である。 3.症状 動静脈奇形は先天性病変であることから発症は出生時から認めることが多いが、幼小児期ではシャント血流が少なく、成人期での症状初発も稀ではない。女性では月経や妊娠により症状増悪を見る。自然消退はなく、男女とも成長や外的刺激などに伴って症状が進行・悪化する。その進行度合いについては以下のSchöbinger病期分類が一般的に使用されている。初期(StageI)では紅斑と皮膚温上昇を認め、腫脹はあっても軽度である。StageIIでは腫脹の増大と拍動の触知、血管雑音の聴取などが認められる。StageIIIでは、盗血現象による末梢のチアノーゼや萎縮、皮膚潰瘍、疼痛などが現れる。巨大動静脈奇形では動静脈シャント血流増加にともなう右心負荷増大により心不全を呈する(StageIV)。 巨大動静脈奇形(頚部顔面・四肢病変)においては疼痛、感染、出血、皮膚・骨・軟部組織の潰瘍壊死などが難治性に進行し、高度の感染、出血、心不全は致死的となる。 頚部・舌・口腔病変では気道狭窄による呼吸困難の症状を呈し気管切開を要するが、前頚部に病変がある場合には気管切開すら困難となる。舌・口腔・鼻腔・顔面病変では、摂食・嚥下困難、顔面骨・上顎・下顎骨の変形・吸収・破壊、骨格性咬合不全、閉塞性睡眠時無呼吸、構音機能障害を来す。眼窩・眼瞼病変では開瞼・閉瞼不全、眼球突出・眼位異常、視力低下を呈し、眼窩内出血・感染などにより失明に至る。耳部病変では拍動音自覚が常時持続し、外耳道閉塞、中耳炎、内耳破壊などにより聴力障害・平衡感覚障害などを来す。皮膚や粘膜に病変が及ぶ場合は軽度の刺激で出血・感染を繰り返す。顔面巨大病変では腫瘤形成・変色・変形が顔面の広範囲にわたることにより高度の醜状を呈し、就学・就職・結婚など社会生活への適応を生涯にわたり制限される。 四肢では盗血現象などにより手指(足趾)のチアノーゼ、知覚障害、疼痛、皮膚潰瘍、出血、感染、壊死が多部位よりも難治性に進行する。患肢の変形、萎縮、骨融解などにより、運動機能障害を生じ、進行すると一肢機能全廃にいたる。骨盤部陰部にいたる場合には勃起障害などによる生殖機能不全や腸管・膀胱内浸潤による下血・血尿などを認めることがある。 4.治療法 保存的治療として血管拡張抑制のために弾性ストッキングなどを用いた圧迫療法があるが、四肢巨大動静脈奇形では進行をわずかに遅らせる効果にとどまり、頚部顔面巨大動静脈奇形では圧迫自体が呼吸・咀嚼・開閉瞼などの機能を阻害しかねない。また圧迫自体で疼痛増悪を来す場合もあり、継続困難となる場合が多い。日常的な疼痛や感染などの症状には、鎮痛剤・抗菌薬などによる一般的な対症療法が行われる。 侵襲的治療の主なものは血管内治療(塞栓術・硬化療法)と切除手術である。薬物療法や放射線照射に有効性は認められていない。塞栓術・硬化療法は多数回の治療を要し、巨大動静脈奇形(頚部顔面・四肢病変)では残存病変の進行悪化が早いため、効果は一時的・限定的である。 切除手術は、限局性病変で術後の整容・機能障害が問題視されない部位には良い適応となるが、頚部顔面巨大動静脈奇形での切除手術は大量出血などによる致死的危険性を伴い、顔面神経麻痺や高度醜状などの後遺症をともない、良好な結果は得られない。四肢巨大動静脈奇形での切除手術は主要神経・血管の合併切除が不可避であり機能障害がほぼ必発である。四肢小病変では患肢切断により病変除去が可能となる場合もあるが、四肢巨大動静脈奇形は股関節や肩関節付近まで病変が及ぶため患肢切断術自体に致死的大量出血の危険があり、完治は不可能である。また病状の進行が軽度の早期症例では四肢機能が温存されているため、患肢切断術はかえってADL(日常生活動作)を損なうため適応外となる。皮膚潰瘍に対しては有効な治療が少なく難治性・易再発性で、指(趾)壊死は壊死部直近の切断術を行ってもさらに進行し、より中枢での切断を余儀なくされる。 5.予後   巨大動静脈奇形(頚部顔面・四肢病変)は成長と共に病変が増大し、時間経過に伴い成人後も進行する。視覚・呼吸・嚥下・摂食・構音・疼痛・醜状・四肢運動などの重大な機能障害が進行し、動脈性出血や心不全は致死的となることなどから、社会的自立が困難となる。塞栓術・硬化療法、切除術などのあらゆる治療を単独もしくは複合的に用いても完治は望めず、病状の一時的制御にとどまる。進行性かつ難治性で、生命の危険に晒されうる疾患であり、対症療法も含めて生涯にわたる長期永続的な病状コントロールを必要とする。 ○ 要件の判定に必要な事項 患者数 約700人 発病の機構 不明(脈管の発生異常と考えられている。) 効果的な治療方法 未確立(塞栓術・硬化療法、切除術。効果は一時的で難治性である。) 長期の療養 必要 診断基準 あり(研究班作成、日本形成外科学会、日本IVR学会承認の診断基準あり。) 重症度分類 あり(重症度分類において、①~④のいずれかを満たすものを対象とする。) ○ 情報提供元 「難治性血管腫・血管奇形・リンパ管腫・リンパ管腫症および関連疾患についての調査研究班」 研究代表者 聖マリアンナ医科大学放射線医学講座 病院教授 三村秀文 <診断基準> 巨大動静脈奇形(頚部顔面・四肢病変)の診断は、(I)脈管奇形診断基準に加えて、後述する(II)細分類診断基準にて巨大動静脈奇形(頚部顔面・四肢病変)と診断されたものを対象とする。鑑別疾患は除外する。 (I)脈管奇形(血管奇形及びリンパ管奇形)診断基準 軟部・体表などの血管あるいはリンパ管の異常な拡張・吻合・集簇など、構造の異常から成る病変で、理学的所見、画像診断あるいは病理組織にてこれを認めるもの。 本疾患には静脈奇形(海綿状血管腫)、動静脈奇形、リンパ管奇形(リンパ管腫)、リンパ管腫症・ゴーハム病、毛細血管奇形(単純性血管腫・ポートワイン母斑)及び混合型脈管奇形(混合型血管奇形)が含まれる。 鑑別診断 1.血管あるいはリンパ管を構成する細胞等に腫瘍性の増殖がある疾患 例)乳児血管腫(イチゴ状血管腫)、血管肉腫など 2.明らかな後天性病変 例)一次性静脈瘤、二次性リンパ浮腫、外傷性・医原性動静脈瘻、動脈瘤など (II)細分類 ②巨大動静脈奇形(頚部顔面・四肢病変)診断基準 頚部顔面又は四肢に画像検査上病変を確認することは必須である。2の画像検査所見のみでは質的診断が困難な場合、1あるいは3を加えて診断される。 巨大の定義は、頚部顔面においては患者の手掌大以上の大きさとする。手掌大とは、患者本人の指先から手関節までの手掌の面積をさす。四肢においては少なくとも一肢のほぼ全体にわたるものとする。 1.理学的所見 血管の拡張や蛇行がみられ、拍動やスリル(シャントによる振動)を触知し、血管雑音を聴取する。 2.画像検査所見 超音波検査、MRI検査、CT検査、動脈造影検査のいずれかにて動静脈の異常な拡張や吻合を認め、病変内に動脈血流を有する。頚部顔面では少なくとも1つの病変は患者の手掌大以上である。四肢においては少なくとも一肢のほぼ全体にわたるものである。 3.病理所見     明らかな動脈、静脈のほかに、動脈と静脈の中間的な構造を示す種々の径の血管が不規則に集簇している。中間的な構造を示す血管の壁では弾性板や平滑筋層の乱れがみられ、同一の血管のなかでも壁の厚さはしばしば不均一である。また、毛細血管の介在を伴うこともある。 <重症度分類> ①~④のいずれかを満たすものを対象とする。 ①modified Rankin Scale(mRS)、食事・栄養、呼吸のそれぞれの評価スケールを用いて、いずれかが3以上を対象とする。 日本版modified Rankin Scale (mRS) 判定基準書 日本版modified Rankin Scale (mRS) 判定基準書 日本版modified Rankin Scale (mRS) 判定基準書 modified Rankin Scale modified Rankin Scale 参考にすべき点 0 まったく症候がない 自覚症状及び他覚徴候がともにない状態である 1 症候はあっても明らかな障害はない: 日常の勤めや活動は行える 自覚症状及び他覚徴候はあるが、発症以前から行っていた仕事や活動に制限はない状態である 2 軽度の障害: 発症以前の活動が全て行えるわけではないが、自分の身の回りのことは介助なしに行える 発症以前から行っていた仕事や活動に制限はあるが、日常生活は自立している状態である 3 中等度の障害: 何らかの介助を必要とするが、歩行は介助なしに行える 買い物や公共交通機関を利用した外出などには介助を必要とするが、通常歩行、食事、身だしなみの維持、トイレなどには介助を必要としない状態である 4 中等度から重度の障害: 歩行や身体的要求には介助が必要である 通常歩行、食事、身だしなみの維持、トイレなどには介助を必要とするが、持続的な介護は必要としない状態である 5 重度の障害: 寝たきり、失禁状態、常に介護と見守りを必要とする 常に誰かの介助を必要とする状態である 6 死亡 死亡
日本脳卒中学会版 食事・栄養 (N) 0.症候なし。 1.時にむせる、食事動作がぎこちないなどの症候があるが、社会生活・日常生活に支障ない。 2.食物形態の工夫や、食事時の道具の工夫を必要とする。 3.食事・栄養摂取に何らかの介助を要する。 4.補助的な非経口的栄養摂取(経管栄養、中心静脈栄養など)を必要とする。 5.全面的に非経口的栄養摂取に依存している。 呼吸 (R) 0.症候なし。 1.肺活量の低下などの所見はあるが、社会生活・日常生活に支障ない。 2.呼吸障害のために軽度の息切れなどの症状がある。 3.呼吸症状が睡眠の妨げになる、あるいは着替えなどの日常生活動作で息切れが生じる。 4.喀痰の吸引あるいは間欠的な換気補助装置使用が必要。 5.気管切開あるいは継続的な換気補助装置使用が必要。 ②聴覚障害:以下の3高度難聴以上   0.25dBHL 未満(正常)   1.25dBHL以上40dBHL未満(軽度難聴)   2.40dBHL以上70dBHL未満(中等度難聴)   3.70dBHL以上90dBHL未満(高度難聴)   4.90dBHL以上(重度難聴) ※500、1000、2000Hzの平均値で、聞こえが良い耳(良聴耳)の値で判断。 ③視覚障害: 良好な方の眼の矯正視力が0.3未満。 ④以下の出血、感染に関するそれぞれの評価スケールを用いて、いずれかが3以上を対象とする。 出血 0.症候なし。 1.ときおり出血するが日常の務めや活動は行える。 2.しばしば出血するが、自分の身の周りのことは医療的処置なしに行える。 3.出血の治療ため一年間に数回程度の医療的処置を必要とし、日常生活に制限を生じるが、治療によって出血予防・止血が得られるもの。 4.致死的な出血のリスクをもつもの、または、慢性出血性貧血のため月一回程度の輸血を定期的に必要とするもの。 5.致死的な出血のリスクが非常に高いもの。 感染 0.症候なし。 1.ときおり感染を併発するが日常の務めや活動は行える。 2.しばしば感染を併発するが、自分の身の周りのことは医療的処置なしに行える。 3.感染・蜂窩織炎の治療ため一年間に数回程度の医療的処置を必要とし、日常生活に制限を生じるが、治療によって感染症状の進行を抑制できるもの。 4.敗血症などの致死的な感染を合併するリスクをもつもの。 5.敗血症などの致死的な感染を合併するリスクが非常に高いもの。 ※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項 1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない。(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。) 2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。 3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要なものについては、医療費助成の対象とする。

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