@Toyofumi Fujiwara:00171 / 3440-3443 JSONTXT

171 ウィルソン病 ○ 概要 1.概要  ウィルソン病は常染色体劣性遺伝で遺伝する胆汁中への銅排泄障害による先天性銅過剰症である。 2.原因  ATP7B遺伝子の変異により銅の胆汁中への排泄が阻害され全身臓器に銅が沈着して組織障害を引き起こす。 3.症状  銅の組織沈着により肝機能障害、様々な神経症状、精神症状、腎障害等全身の臓器障害を来しうる。 4.治療法  D-ペニシラミン、トリエンチンや酢酸亜鉛の内服を生涯続ける必要がある。肝不全となった場合は肝移植の対象となる。 5.予後  早期に診断され、適切な治療を続けた場合は予後良好なことが多い。治療の中断は致死的である。 ○ 要件の判定に必要な事項 患者数 約3,000人 発病の機構 未解明(ATP7Bの遺伝子変異) 効果的な治療方法 未確立(生涯の治療が必要である。) 長期の療養 必要(生涯にわたる治療が必要である。) 診断基準 あり(日本小児栄養消化器肝臓学会、日本移植学会、日本肝臓学会、日本小児神経学会、日本神経学会、日本先天代謝異常学会、ウイルソン病研究会ならびにウイルソン病友の会共同で作成した診療ガイドラインあり、欧州肝臓病学会承認の診断基準あり) 重症度分類 1)~3)のいずれかを満たす場合を対象とする。 1)肝障害を認める場合 2)神経障害等を認める場合 3)腎機能障害を認める場合 ○ 情報提供元 「日本肝臓学会」 研究代表者 産業医科大学 教授 原田大 <診断基準> Definiteを対象とする。 ウィルソン病の診断基準 A.症状 カイザー・フライシャー(Kayser-Fleisher)角膜輪 2点 精神神経症状 軽症 1点、重症 2点 (参考)軽症:軽度の手指の振戦やうつ症状等 重症:日常生活に支障をきたすような歩行障害、構音障害、流涎や統合失調症様の精神症状等 B.検査所見 1.血清セルロプラスミン 10mg/dL未満 2点、10以上20mg/dL未満 1点 2.クームス陰性溶血性貧血 1点 3.尿中銅排泄量 40以上80µg/日未満 1点、80µg/日以上 2点 4.肝銅含量 50µg/g乾肝重量以上250µg/g乾肝重量未満 1点、250µg/g乾肝重量以上 2点 肝銅含量を測っていない場合、肝生検組織で銅染色 陽性1点 5.精神神経症状がない場合に頭部MRIで銅沈着の所見 1点 C.鑑別診断 以下の疾患を鑑別する。  肝疾患としては慢性ウイルス性肝炎、非アルコール性脂肪性肝疾患、アルコール性肝疾患、薬物性肝疾患、自己免疫性肝疾患、原発性胆汁性胆管炎、原発性硬化性胆管炎、ヘモクロマトーシス、α1-アンチトリプシン欠乏症等を鑑別する。  神経疾患としては不随意運動、姿勢異常やけいれんを呈する疾患を鑑別する。  精神疾患としてはうつ症状、不安神経症、双極性障害、妄想性障害、統合失調症、ヒステリーの症状を呈する疾患を鑑別する。 D.遺伝学的検査 ATP7B遺伝子の変異 1つの染色体 1点、両方の染色体 4点 <診断のカテゴリー> Definite:上記の点数の合計が4以上 Possible:上記の点数の合計が3以上 <重症度分類> 以下1)~3)のいずれかを満たす場合を対象とする。 1)肝障害を認める場合 ○Child-Pugh分類を用いて、B、Cを対象とする。 Child-Pugh分類 ポイント 項目 1点 2点 3点 脳症 ない 軽度 ときどき昏睡 腹水 ない 少量 中等量 血清ビリルビン値(mg/dL) 2.0未満 2.0~3.0 3.0超 血清アルブミン値(g/dL) 3.5超 2.8~3.5 2.8未満 プロトロンビン活性値(%) 70超 40~70 40未満
分類 点数 A 5~6点 B 7~9点 C 10~15点
2)神経障害等を認める場合 modified Rankin Scale(mRS)、食事・栄養、呼吸のそれぞれの評価スケールを用いて、いずれかが3以上を対象とする。 日本版modified Rankin Scale (mRS) 判定基準書 日本版modified Rankin Scale (mRS) 判定基準書 日本版modified Rankin Scale (mRS) 判定基準書 modified Rankin Scale modified Rankin Scale 参考にすべき点 0 まったく症候がない 自覚症状及び他覚徴候がともにない状態である 1 症候はあっても明らかな障害はない: 日常の勤めや活動は行える 自覚症状及び他覚徴候はあるが、発症以前から行っていた仕事や活動に制限はない状態である 2 軽度の障害: 発症以前の活動が全て行えるわけではないが、自分の身の回りのことは介助なしに行える 発症以前から行っていた仕事や活動に制限はあるが、日常生活は自立している状態である 3 中等度の障害: 何らかの介助を必要とするが、歩行は介助なしに行える 買い物や公共交通機関を利用した外出などには介助を必要とするが、通常歩行、食事、身だしなみの維持、トイレなどには介助を必要としない状態である 4 中等度から重度の障害: 歩行や身体的要求には介助が必要である 通常歩行、食事、身だしなみの維持、トイレなどには介助を必要とするが、持続的な介護は必要としない状態である 5 重度の障害: 寝たきり、失禁状態、常に介護と見守りを必要とする 常に誰かの介助を必要とする状態である 6 死亡 死亡
日本脳卒中学会版 食事・栄養 (N) 0.症候なし。 1.時にむせる、食事動作がぎこちないなどの症候があるが、社会生活・日常生活に支障ない。 2.食物形態の工夫や、食事時の道具の工夫を必要とする。 3.食事・栄養摂取に何らかの介助を要する。 4.補助的な非経口的栄養摂取(経管栄養、中心静脈栄養など)を必要とする。 5.全面的に非経口的栄養摂取に依存している。 呼吸 (R) 0.症候なし。 1.肺活量の低下などの所見はあるが、社会生活・日常生活に支障ない。 2.呼吸障害のために軽度の息切れなどの症状がある。 3.呼吸症状が睡眠の妨げになる、あるいは着替えなどの日常生活動作で息切れが生じる。 4.喀痰の吸引あるいは間欠的な換気補助装置使用が必要。 5.気管切開あるいは継続的な換気補助装置使用が必要。 3)腎機能障害を認める場合 腎:CKD重症度分類ヒートマップが赤の部分の場合。 CKD重症度分類ヒートマップ     蛋白尿区分 蛋白尿区分 A1 A2 A3     尿蛋白定量 (g/日) 尿蛋白/Cr比 (g/gCr) 尿蛋白定量 (g/日) 尿蛋白/Cr比 (g/gCr) 正常 軽度蛋白尿 高度蛋白尿     尿蛋白定量 (g/日) 尿蛋白/Cr比 (g/gCr) 尿蛋白定量 (g/日) 尿蛋白/Cr比 (g/gCr) 正常 軽度蛋白尿 高度蛋白尿     尿蛋白定量 (g/日) 尿蛋白/Cr比 (g/gCr) 尿蛋白定量 (g/日) 尿蛋白/Cr比 (g/gCr) 正常 軽度蛋白尿 高度蛋白尿     尿蛋白定量 (g/日) 尿蛋白/Cr比 (g/gCr) 尿蛋白定量 (g/日) 尿蛋白/Cr比 (g/gCr) 正常 軽度蛋白尿 高度蛋白尿     尿蛋白定量 (g/日) 尿蛋白/Cr比 (g/gCr) 尿蛋白定量 (g/日) 尿蛋白/Cr比 (g/gCr) 正常 軽度蛋白尿 高度蛋白尿     尿蛋白定量 (g/日) 尿蛋白/Cr比 (g/gCr) 尿蛋白定量 (g/日) 尿蛋白/Cr比 (g/gCr) 0.15未満 0.15~0.49 0.50以上 GFR区分 (mL/分/1.73㎡) G1 正常又は高値 ≧90 緑 黄 オレンジ GFR区分 (mL/分/1.73㎡) G2 正常又は軽度低下 60~89 緑 黄 オレンジ GFR区分 (mL/分/1.73㎡) G3a 軽度~中等度低下 45~59 黄 オレンジ 赤 GFR区分 (mL/分/1.73㎡) G3b 中等度~高度低下 30~44 オレンジ 赤 赤 GFR区分 (mL/分/1.73㎡) G4 高度低下 15~29 赤 赤 赤 GFR区分 (mL/分/1.73㎡) G5 末期腎不全(ESKD) <15 赤 赤 赤 GFR区分 (mL/分/1.73㎡) G5 末期腎不全(ESKD) <15 赤 赤 赤
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項 1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。 2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。 3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要なものについては、医療費助成の対象とする。

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