動物の脚は多様かつ複雑で、複数の役割を担っている。脚が果たすべき主要な要件のひとつに、ある程度の経済性を伴って陸上での移動を促進することが挙げられる。もし胴体が垂直方向の力のみで支えられ、鉛直方向への振動なしに水平移動ができれば、理論的には、機械的エネルギを失うことがなく、経済的な歩行が達成される。これは実質的には車輪による並進移動と同等であり、リクガメの歩行で近似できる状態に近い。もしこれが四足歩行性四肢動物の歩行に伴う機械的仕事をゼロにできる潜在的な戦略であるとすれば、肘を張り出す側方型四肢姿勢と肘を体壁に沿わせる下方型四肢姿勢のそれぞれについて、四肢の構造・姿勢・多様性をどのように解釈すればよいのだろうか?この課題に取り組むために、産業革命期に提案された種々のリンケージを検討する。ワット・リンクは、対角線上の脚を体重支持に使う側方型四肢脊椎動物のアナロジーになっており、垂直軸関節によって、ほぼ直線的な並進運動が最小限の機械的パワーでいかに実現されうるかを示している。ここで、各四肢に垂直軸関節を追加すると、これは壁に取り付けた引出式モニタアームに相当し、体重支持に伴う機械的仕事がゼロで、かつ傾きや転倒のない並進移動が可能となる。これは、リクガメに見られる力のプロファイルと合致している。また別のリンケージである Peaucellier リンケージは、左右軸関節をもち矢状面内で脚を動かす方式(下方型四肢)でも仕事ゼロの戦略を達成可能であろうことを示している。さらに、4バーリンケージを適切に調整することで、生物学的により現実的な曲がった四肢でも、仕事ゼロ戦略が近似的に実現可能であることが示唆された。「歩行」ではしばしば、質量中心についての運動エネルギと重力ポテンシャルエネルギの位相にずれが見られる。一方、走行(ランニング)・ホッピング・トロットではエネルギ変動は位相が揃っている。これらに対して、リクガメで近似された「四肢仕事ゼロ戦略」では運動エネルギとポテンシャルエネルギの変動がゼロであると考えられる。このエネルギ変動の明確な違いは、ある種の歩容 (gait)、とりわけ側方型や匍匐型の姿勢をとる四肢動物のそれは、現在の運動学的歩容の定義に合わない可能性を浮き彫りにする。そこで、新たな歩容パラダイム「四肢仕事ゼロ戦略 (zero limb-work strategy)」を提唱する。.