285 ファンコニ貧血 ○ 概要 1.概要 染色体の脆弱性を背景に、1)進行性汎血球減少、2)骨髄異形成症候群や白血病への移行、3)身体奇形、4)固形がんの合併を来すことのある血液疾患である。 2.原因 DNAの修復に働く19のファンコニ貧血責任遺伝子がこれまでに同定されている。1つを除いて常染色体劣性の遺伝形式をとるが、発病の機構は明らかではない。本邦では約70%に遺伝子の変異が同定されている。 3.症状 皮膚の色素沈着、身体奇形、低身長、性腺機能不全を伴うが、その表現型は多様である。小児期に進行性の汎血球減少症を発症し、思春期から成人期にかけて骨髄異形成症候群や急性骨髄性白血病への移行がみられることが多く、成人期に頭頚部などの発癌リスクが増加する。 4.治療法 造血不全、造血器腫瘍に対しては造血細胞移植が唯一治癒を期待できる治療である。固形がんの化学療法は困難であり、手術療法が主体となる。身体奇形は外科的手術を施行する。 5.予後 10歳までに80%以上、40歳までに90%以上の患者は、再生不良性貧血を発症する。思春期から成人期にかけて骨髄異形成症候群や急性骨髄性白血病への移行がみられることが多く、20歳を超えると頭頚部などの発癌リスクが増加し予後不良である。 ○ 要件の判定に必要な事項 患者数 約200人 発病の機構 不明(定まった見解がなく検討中) 効果的な治療方法 未確立(造血不全、造血器腫瘍に対しては造血細胞移植) 長期の療養 必要 診断基準 あり(研究班作成の診断基準あり) 重症度分類 再生不良性貧血に関しては後天性再生不良性貧血の重症度分類を用いて、Stage 2以上を対象とする。 ○ 情報提供元 「ファンコニ貧血」 研究代表者 東海大学医学部基盤診療学系細胞移植再生医療科 教授 矢部普正 <診断基準> ファンコニ(Fanconi)貧血の診断基準 A.症状 1.汎血球減少 国際ファンコニ貧血登録の血球減少基準に準じ、以下の基準のいずれかを認める。 貧血:ヘモグロビン 10g/dL未満 好中球数:1,000/µL未満 血小板:100,000/µL未満 2.皮膚の色素沈着 3.身体奇形:何らかの身体奇形は約80%にみられるが、多様である。 上肢:親指の欠損・低形成、多指症、橈骨・尺骨の欠損 下肢:つま先合指、かかとの異常、股関節脱臼 骨格系:小頭症、小顎症、二分脊椎、側湾症、肋骨の変形・欠損 性腺:男性:性器形成不全症、停留睾丸、尿道下裂、小陰茎 女性:性器形成不全症、双角子宮、月経異常 眼:小眼球、斜視、乱視、白内障 耳:難聴、外耳道閉鎖、形態異常、中耳の異常 腎:低形成、欠損、馬蹄腎、水腎症 消化管:食道閉鎖、十二指腸閉鎖、鎖肛、気管食道瘻 心:動脈管開存、心室中隔欠損等種々の先天性心奇形 4.低身長:半数以上は年齢相応身長の−2SD以下である。 5.性腺機能不全 B.検査所見 1.染色体不安定性(染色体脆弱)を示し、マイトマイシンCなどのDNA鎖間架橋薬剤で処理をすると、染色体の断裂の増強やラジアル構造を持つ特徴的な染色体が観察される。 C.鑑別診断 以下の疾患を鑑別する。 先天性角化不全症、シュワッハマン・ダイアモンド(Schwachman-Diamond)症候群、ピアソン症候群、色素性乾皮症、毛細血管拡張性運動失調症、ブルーム症候群、ナイミーヘン症候群 D.遺伝学的検査 ファンコニ貧血遺伝子の変異(現時点でDNAの修復に働く以下の19のファンコニ貧血責任遺伝子が報告されている) FANCA、FANCB、FANCC、FANCD1(BRCA2)、FANCD2、FANCE、FANCF、FANCG、FANCI、 FANCJ(BRIP1)、FANCL、FANCM、FANCN (PALB2)、FANCO(RAD51C)、FANCP(SLX4)、 FANCQ(XPF)、FANCR(RAD51)、FANCS(BRCA1)、FANCT(UBE2T) <診断のカテゴリー> Definite:以下のいずれかを満たす場合をDefiniteとする。 (1)BとCを満たし、Aの1項目以上を満たす場合 (2)Aの1項目以上を満たし、FANCBを除くDのいずれかをホモ接合体で証明、あるいは男性でFANCBの変異を証明された場合 <重症度分類> 後天性再生不良性貧血の重症度分類を用いて評価し、Stage 2以上を対象とする。