@Toyofumi Fujiwara:00151 / 140-144 JSONTXT

151 ラスムッセン脳炎 ○ 概要 1.概要  慢性進行性の疾患である。健常者に何らかの先行感染症やワクチン接種があった後に、あるいは先行感染なく限局性に細胞傷害性T細胞を主役とした自己免疫性炎症が起こり、通常はてんかん発作で発病する。てんかん発作が難治に経過し、次第に片麻痺・知的障害などが出現し、半球性の萎縮がMRIで明らかとなる。発病年齢は平均9.0(±10.3)歳だが、成人でも発病しうる。 2.原因  細胞傷害性T細胞を主役とした自己免疫性炎症が推測されている。皮質形成異常を合併する症例もある。 3.症状  てんかん発作は焦点性発作であり、約半数の症例にみられる持続性部分てんかん(Epilepsia partialis continua:EPC)が特徴で、I指やII指に持続性のミオクローヌスとしてみられることが多いが、顔面や舌にみられることもある。てんかん発作頻度は徐々に増加し、群発するようになるが、数年の経過で後遺症期になると、減少する。 脳波では、初期に限局性の徐波が出現、徐々に一側広汎性に広がる。 MRIでは初期にはFLAIRなどで高信号病変が見られることがあり、その後葉脈状の皮質の萎縮が出現してくることがある。更に経過すると半球性の萎縮となる。 髄液検査では、初期には細胞増多がみられることがあるが、すぐに消退する。髄液中の細胞傷害性T細胞の分泌するgranzyme Bの定量が診断に重要で、GluN2Bに対する抗体も参考となる。これらの免疫因子の測定は静岡てんかん・神経医療センターで行っている。 4.治療法  抗てんかん薬、免疫修飾治療(メチルプレドニゾロンパルス、ガンマグロブリン(IVIg)、タクロリムス、血漿交換など)、てんかん外科治療(機能的半球切除術)、リハビリテーションなどが集学的に行われる。言語優位半球障害例では機能的半球切除術(半球離断術)は幼児例を除いて行えない場合が多く、免疫修飾治療と抗てんかん薬治療が主体となる。言語非優位側障害例では、運動麻痺が出現するまでは機能的半球切除術は行えない場合が多く、免疫修飾治療と抗てんかん薬治療が主体となる。 5.予後  定期的に行うメチルプレドニゾロンパルス治療の、発作が抑制される症例の割合(seizure free rate(SFR))は5%、IQが80以上に保たれた症例の割合(R80)は50%、運動機能が悪化する症例の割合(rate of motor function aggravation, AR)は10%である。定期IVIg治療のSFRは0%、R80は43%、ARは62%である。タクロリムス治療のSFRは8%、R80は29%、ARは0%である。言語非優位側障害例の機能的半球切除術のSFRは71%で、R80は0%である。このように多くの症例で発作が持続し、認知機能の低下、運動障害の出現を回避できていない。 ○ 要件の判定に必要な事項 患者数 100人未満 発病の機構 不明(細胞傷害性T細胞を主役とした自己免疫性炎症が推測されている。) 効果的な治療方法 未確立(免疫修飾治療としてメチルプレドニゾロンパルス、IVIg、タクロリムスなど、機能的半球切除術。) 長期の療養 必要(進行性である。) 診断基準 あり(研究班作成) 重症度分類 精神保健福祉手帳診断書における「G40てんかん」の障害等級判定区分及び障害者総合支援法における障害支援区分における「精神症状・能力障害二軸評価」を用いて、以下のいずれかに該当する患者を対象とする。 「G40てんかん」の障害等級 能力障害評価 1級程度 1~5全て 2級程度 3~5のみ 3級程度 4~5のみ
○ 情報提供元 「希少難治性てんかんのレジストリ構築による総合的研究」 研究代表者 国立病院機構 静岡てんかん・神経医療センター 院長 井上有史 <診断基準> 表.ラスムッセン脳炎の診断基準 Part A Part B 臨床症状 焦点性発作(EPCの有無を問わない) and 一側半球機能障害 EPC or 進行性一側半球機能障害 脳波 一側半球の徐波化(発作間欠期発射の有無は問わない。) and 一側半球のみから起始する発作 MRI 一側半球局所性皮質萎縮 and 皮質又は白質:T2/FLAIR高信号 or 同側尾状核頭:高信号又は萎縮 進行性一側半球局所性皮質萎縮 組織 活性化ミクログリア(結節を形成することが   多い)と反応性アストロサイトグリオーシスを示すT細胞優位の脳の炎症 and 多数のマクロファージ、形質細胞、又は  B細胞が脳実質内に浸潤していない and ウイルス封入体がない 診断 Aの3項目全て Bの3項目のうち2つ
※EPC=持続性部分てんかん(Epilepsia partialis continua) 鑑別診断 以下の疾患を鑑別する。 一側性のてんかん症候群では皮質異形成、片側巨脳症、片側痙攣・片麻痺・てんかん症候群、腫瘍などを鑑別する。代謝性疾患では糖尿病やミトコンドリア脳筋症、炎症性疾患では血管炎や傍腫瘍性脳炎などを検討する。 <診断のカテゴリー> 表のPart A のうちの3項目全てを満たすか、Part Bの3項目のうちの2項目を満たし、鑑別診断を除外して診断する。Part Bの場合で組織所見がない場合は造影MRIとCTで一側性血管炎を除外する。 <参考所見> A.症状 焦点性の発作(部分発作):比較的頻回にあり、発作の増加とともに一側半球機能障害の症状が顕在化してくることが特徴。 持続性部分てんかん(Epilepsia partialis continua:EPC)Ⅰ指やⅡ指に持続性のミオクローヌスとして見られることが多いが、顔面や舌に見られることもある。 一側半球障害:片麻痺、視野狭窄、失語などが観察される。 B.検査所見 血液・生化学的検査所見:特異的所見なし。 画像検査所見:発病から1年以内のMRIでは、FLAIR高信号病変(6/9例)を認めることが多いが、明らかなMRI病変を認めない症例(2/9例)もある。全経過で見ると、萎縮性病変は80%以上に、T2強調画像やFLAIR画像での高信号病変も80%以上に出現する。高信号病変は、皮質単独>(皮質+皮質下白質)>白質単独>(皮質+白質)の順に高頻度である。島回は高信号病変が出現しやすい部位である。高信号病変は病状の悪化・改善に伴って出現・消褪という機能的な変化を示すことがあり、本症候群を疑うきっかけとなる。ラスムッセン脳炎は一側性変化が有名であるが、長期に経過すると両側性の高信号病変も20%程度に認められる。 生理学的所見:脳波所見では発作間歇時脳波で、初期は局在性、続いて一側半球性の徐波が見られる。 病理所見:脳生検はあまり行われないが、手術時の組織検索で活性化ミクログリアと反応性グリオーシスを示すT細胞優位の脳の炎症所見があり、多数の脳実質内マクロファージ、B細胞の浸潤がないことを特徴とする。 髄液検査:一般検査では細胞数は初期に増加するが、その後は正常範囲のことが多い。髄液蛋白濃度は初期には正常範囲でその後上昇する、アルブミン濃度で見るとよりその傾向が顕著となる。髄液中のGranzyme B は有意に高く、発病初期に高値で初期診断に役立つ。そのほかには髄液IFN γ、IL-12も初期に高値となる。髄液TNF αは発病初期から慢性期まで高値の症例が多い。髄液GluR3抗体、GluN2B(ε2、NR2B)抗体などの自己抗体の証明が参考となるが、必ずしも全例に認められるわけではなく、他の自己免疫関与の神経疾患症例でも認められることがあるので注意を要する。GluN2B抗体は発病からしばらくして陽性化することが多い。 C.遺伝学的検査 CTLA4遺伝子、PDCD1遺伝子のSNPの検索 <重症度分類> 精神保健福祉手帳診断書における「G40てんかん」の障害等級判定区分及び障害者総合支援法における障害支援区分における「精神症状・能力障害二軸評価」を用いて、以下のいずれかに該当する患者を対象とする。 「G40てんかん」の障害等級 能力障害評価 1級程度 1~5全て 2級程度 3~5のみ 3級程度 4~5のみ
精神保健福祉手帳診断書における「G40てんかん」の障害等級判定区分 てんかん発作のタイプと頻度 等級 ハ、ニの発作が月に1回以上ある場合 1級程度 イ、ロの発作が月に1回以上ある場合 ハ、ニの発作が年に2回以上ある場合 2級程度 イ、ロの発作が月に1回未満の場合 ハ、ニの発作が年に2回未満の場合 3級程度
「てんかん発作のタイプ」 イ 意識障害はないが、随意運動が失われる発作 ロ 意識を失い、行為が途絶するが、倒れない発作 ハ 意識障害の有無を問わず、転倒する発作 ニ 意識障害を呈し、状況にそぐわない行為を示す発作 精神症状・能力障害二軸評価 (2)能力障害評価 ○判定に当たっては以下のことを考慮する。 ①日常生活あるいは社会生活において必要な「支援」とは助言、指導、介助などをいう。 ②保護的な環境(例えば入院・施設入所しているような状態)でなく、例えばアパート等で単身生活を行った場合を想定して、その場合の生活能力の障害の状態を判定する。 1 精神障害や知的障害を認めないか、又は、精神障害、知的障害を認めるが、日常生活及び社会生活は普通に出来る。 ○適切な食事摂取、身辺の清潔保持、金銭管理や買い物、通院や服薬、適切な対人交流、身辺 の安全保持や危機対応、社会的手続きや公共施設の利用、趣味や娯楽あるいは文化的社会的活動への参加などが自発的に出来るあるいは適切に出来る。 ○精神障害を持たない人と同じように日常生活及び社会生活を送ることが出来る。 2 精神障害、知的障害を認め、日常生活又は社会生活に一定の制限を受ける。 ○「1」に記載のことが自発的あるいはおおむね出来るが、一部支援を必要とする場合がある。 ○例えば、一人で外出できるが、過大なストレスがかかる状況が生じた場合に対処が困難である。 ○デイケアや就労継続支援事業などに参加するもの、あるいは保護的配慮のある事業所で、雇 用契約による一般就労をしている者も含まれる。日常的な家事をこなすことは出来るが、状況や手順が変化したりすると困難が生じることがある。清潔保持は困難が少ない。対人交流は乏しくない。引きこもりがちではない。自発的な行動や、社会生活の中で発言が適切に出来ないことがある。行動のテンポはほぼ他の人に合わせることができる。普通のストレスでは症状の再燃や悪化が起きにくい。金銭管理はおおむね出来る。社会生活の中で不適切な行動をとってしまうことは少ない。 3 精神障害、知的障害を認め、日常生活又は社会生活に著しい制限を受けており、時に応じて支援 を必要とする。 ○「1」に記載のことがおおむね出来るが、支援を必要とする場合が多い。 ○例えば、付き添われなくても自ら外出できるものの、ストレスがかかる状況が生じた場合に対処することが困難である。医療機関等に行くなどの習慣化された外出はできる。また、デイケアや就労継続支援事業などに参加することができる。食事をバランスよく用意するなどの家事をこなすために、助言などの支援を必要とする。清潔保持が自発的かつ適切にはできない。社会的な対人交流は乏しいが引きこもりは顕著ではない。自発的な行動に困難がある。日常生活の中での発言が適切にできないことがある。行動のテンポが他の人と隔たってしまうことがある。ストレスが大きいと症状の再燃や悪化を来しやすい。金銭管理ができない場合がある。社会生活の中でその場に適さない行動をとってしまうことがある。 4 精神障害、知的障害を認め、日常生活又は社会生活に著しい制限を受けており、常時支援を要する。 ○「1」に記載のことは常時支援がなければ出来ない。 ○例えば、親しい人との交流も乏しく引きこもりがちである、自発性が著しく乏しい。自発的な発言が少なく発言内容が不適切であったり不明瞭であったりする。日常生活において行動のテンポが他の人のペースと大きく隔たってしまう。些細な出来事で、病状の再燃や悪化を来しやすい。金銭管理は困難である。日常生活の中でその場に適さない行動をとってしまいがちである。 5 精神障害、知的障害を認め、身の回りのことはほとんど出来ない。 ○「1」に記載のことは支援があってもほとんど出来ない。 ○入院・入所施設等患者においては、院内・施設内等の生活に常時支援を必要とする。在宅患 者においては、医療機関等への外出も自発的にできず、付き添いが必要である。家庭生活においても、適切な食事を用意したり、後片付けなどの家事や身辺の清潔保持も自発的には行えず、常時支援を必要とする。
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項 1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。 2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。 3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続す ることが必要なものについては、医療費助成の対象とする。

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