133 メビウス症候群 ○ 概要 1.概要 メビウス(1888)が疾患単位として確立した疾患で、先天性顔面神経麻痺と先天性外転神経麻痺を特徴とするが、他の脳神経麻痺や四肢形態異常を伴うこともある。先天性顔面神経麻痺と先天性外転神経麻痺(片側性も含む。)を伴い、他の神経筋疾患を原因としないものとする。多くは孤発例であるが、30家系ほどの家族例の報告がある。日本での発生頻度は、少なくとも生産児8万人に1人と推定される。全国の患者数は1,000人前後と推定される。 2.原因 原因は不明である。脳幹(菱脳)の発生障害の原因として、遺伝要因や胎生期の虚血(流域梗塞)が考えられている。病理学的には脳神経核の低形成あるいは欠損、脳神経核の虚血性病変などが報告されている。CT・MRIでは、脳幹の対称性点状石灰化、脳幹低形成を含む形態異常、第6・第7脳神経の欠損又は低形成を認めることがある。多くは孤発例である。家族例では四肢形態異常を伴うことはまれであり、常染色体優性遺伝、常染色体劣性遺伝、X連鎖劣性遺伝が推定されている。遺伝子座は、染色体相互転座例から13q12.2-q13、1p22が推定されている。 3.症状 1)先天性顔面神経麻痺(第7脳神経:通常両側性):仮面様顔貌、閉眼障害、流涎。 2)先天性外転神経麻痺(第6脳神経:通常両側性):共同水平注視麻痺、デュアン(Duane)眼球後退症候 群、内斜視。 3)他の脳神経麻痺(第3・4・5・9・10・12脳神経): 開口障害、小顎、口蓋裂、呼吸障害(喘鳴、低換気、多呼吸、高炭酸ガス血症など)、 哺乳・嚥下障害、舌低形成・線維束性攣縮。 4)四肢形態異常:内反尖足、外反扁平足、減数異常、指低形成、合指趾、ポーランド(Poland) 症候群。 5)その他:筋緊張低下、言語発達遅滞、開鼻声、協調運動障害、知的障害、自閉症、てんかん、難聴、 クリッペル・フェール(Klippel-Feil)症候群、側彎。 4.治療法 根本的治療法はいまだ確立していない。新生児・乳児期の哺乳障害、呼吸障害に適切に対応する。哺乳・嚥下障害では、経管栄養・胃瘻造設を考慮する。呼吸障害には吸引器、気管切開を考慮する。全身管理と共に眼科・耳鼻咽喉科・整形外科・形成外科・歯科等の専門科へのコンサルテーションをする。表情に乏しく、コミュニケーション障害に対する心理社会的対応も必要となる。チーム医療による包括的な健康管理を行い、家族支援を行う。 5.予後 生後間もなくから呼吸障害を生じる例では、人工呼吸器管理が必要となる。呼吸障害や誤嚥(気道感染や窒息)による死亡があり、脳幹機能不全による突然死もある。乳児期においても重症例では呼吸障害、哺乳・嚥下障害が継続し、死亡リスクも残る。咽頭反射が消失している例では窒息のリスクがある。 重症例も徐々に医療的ケアから離脱できることがあり、発達も緩徐ではあるが確実に伸びていく。そのためには早期診断が必要で、神経学的所見と画像検査が重要である。 ○ 要件の判定に必要な事項 患者数 約1,000人 発病の機構 不明(遺伝子変異の機序が示唆される。) 効果的な治療方法 未確立(対症療法のみである。) 長期の療養 必要(呼吸障害、嚥下障害は長期にわたる。) 診断基準 あり(研究班作成の診断基準を日本小児遺伝学会により承認。) 重症度分類 modified Rankin Scale(mRS)、食事・栄養、呼吸のそれぞれの評価スケールを用いて、いずれかが 3以上を対象とする。 ○ 情報提供元 「メビウス症候群の自然歴に基づく健康管理指針作成と病態解明」 研究代表者 川崎医療福祉大学 医療福祉学部 教授 升野光雄 <診断基準> メビウス症候群の診断基準 「メビウス症候群の自然歴に基づく健康管理指針作成と病態解明」研究班作成(平成25年度 改訂版) <重症度分類> modified Rankin Scale(mRS)、食事・栄養、呼吸のそれぞれの評価スケールを用いて、いずれかが 3以上を対象とする。