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@Toyofumi Fujiwara:00020 JSONTXT

20 副腎白質ジストロフィー ○ 概要 1.概要  副腎白質ジストロフィーは、副腎不全と中枢神経系の脱髄を主体とするX連鎖性形式の遺伝性疾患である。小児大脳型、思春期大脳型、副腎脊髄ニューロパチー(adrenomyeloneuropathy:AMN)、成人大脳型、小脳・脳幹型、アジソン型、女性発症者などの臨床病型が存在し、各々の臨床経過、予後は異なる。生化学的特徴としては、中枢神経系だけでなく、ほとんどの組織や血漿、赤血球膜、白血球などにおいて極長鎖脂肪酸の増加がみられる。 2.原因  病因遺伝子はABCD1遺伝子であるが、ABCD1遺伝子変異と臨床病型の間に明らかな相関関係は認められず、遺伝子型から発症年齢あるいはAMNか大脳型かなどの臨床病型を予測することはできない。また、同一遺伝子異常を有していても異なる表現型を呈する例が多く報告されており、ABCD1遺伝子異常だけではなく、他に病型を規定する要因(遺伝学的又は環境要因)の存在が想定されている。 3.症状  典型的な小児大脳型は5~10歳に好発し、視力・聴力障害、学業成績低下、痙性歩行などで発症することが多い。発症後、比較的急速な進行を呈する。  思春期大脳型(11~21歳発症)は、小児大脳型と同様の症状を呈するが、やや緩徐に進行する。  成人大脳型(22歳以後の発症)は、認知症や精神症状で発症し、比較的急速に進行する。  AMNは、思春期以降に痙性歩行を主症状に発症し、陰萎、排尿障害等を来し、軽度の感覚障害を伴うことがある。AMNの経過中に、半数程度は大脳型に移行するとされている。  小脳・脳幹型は、小脳失調、痙性不全麻痺を主症状とする。  アジソン型は副腎不全が高度の場合、嘔吐、筋力低下、全身倦怠感、体重減少に色素沈着を認める。発症は2歳以降、成人期まで認められる。また、経過中に神経症状が明らかになる例もあり、注意を要する。 女性保因者でも一部では加齢とともにAMN様症状を来すことがある(女性発症者)。 4.治療法  近年、小児大脳型において発症後早期の造血細胞移植により、症状の進行の停止が報告されており、治療法として期待されている。一方、進行期での移植例では十分な効果が得られないことが多い。また、造血細胞移植に関連する合併症(GVHDなど)による重篤例もあり、適応については十分な検討が必要である。早期の診断と早期の造血細胞移植が予後において極めて重要である。  Lorenzo's oil(オレイン酸:エルカ酸=4:1)は、血中の極長鎖脂肪酸(VLCFA)(特に飽和脂肪酸)は正常化するが、発症した神経症状を抑制する効果は乏しいと考えられる。その他、AMNや女性発症者の痙性対麻痺症状には対症療法として、抗痙縮薬内服や理学療法を行う。副腎不全に対してはステロイドの補充が行われる(ただし、ステロイドは神経症状には無効である)。 5.予後  小児大脳型、成人大脳型は、無治療の場合、発症後、急速に進行し寛解なく、1~2年で臥床状態に至ることが多い。大脳に脱髄病変を認めないAMN症例は緩徐進行性の経過をとり、生命予後は良好である。ただし、経過中に成人大脳型に移行し、急速な進行を認める例があり、注意が必要である。小脳・脳幹型でも成人大脳型に移行することがある。またアジソン型もAMNや大脳型に進展することがあり、注意を要する。  未発症男児に関しては、現時点では病型の予測が不可能であるため、副腎機能検査と、大脳型発症が示唆された段階でスムーズな造血細胞移植を実施するために、発症前の段階から慎重なfollow-up体制をとることが大脳型の予後改善に重要である。  そのためにも、本症の発端者からの遺伝カウンセリングや家系内の未発症男児への積極的な対応などを、倫理面に十分な配慮をしながら進めていく必要がある。診断後、特に3歳から12歳の未発症男児に対しては最低6か月に1回のMRI、神経生理学的検査(視覚誘発電位及び聴性脳幹反応)、6か月から1年に1回の神経心理学検査(Wechsler系知能検査他)、更に12歳以降では1年ごとのMRI検査が必要と考える。いずれかの検査で大脳型の発症が示唆された(所見の進行があった)場合には、早急に造血細胞移植を検討すべきと思われる。 ○ 要件の判定に必要な事項 1.患者数(平成24年度医療受給者証保持者数)   193人 2.発病の機構 不明(ABCD1遺伝子の変異が示唆されている。) 3.効果的な治療方法 未確立(根治療法なし。) 4.長期の療養   必要(進行性である。) 5.診断基準 あり   6.重症度分類     臨床経過による病型分類を用いて、全ての病型を対象とする。  ○ 情報提供元 神経・筋疾患調査研究班(ライソゾーム病) 「ライソゾーム病(ファブリ病含む)に関する調査研究班」 研究代表者 東京慈恵会医科大学医学部 名誉教授 衞藤義勝 <診断基準> 1.主要症状および臨床所見 各病型(表)で高頻度に認められる所見は以下のとおりである。 ①精神症状 小児では注意欠陥多動障害や心身症と類似した症状を呈する。成人では社会性の欠如や 性格変化、精神病に類似した症状を呈する。 ②知能障害 小児では学習障害、視力・聴力・認知・書字・発語などの異常が現れる。成人では、認知症、 高次機能障害(失語、失行、失認)などを呈する。 ③視力低下 初発症状として多い。視野の狭窄、斜視、皮質性の盲などを呈する。 ④歩行障害 痙性対麻痺(痙性対麻痺を呈することが多いが、ときに左右差を認めることもある。)による歩行 障害を呈する。 ⑤錐体路徴候 四肢の痙性、腱反射の亢進、病的反射陽性で、どの病型においても高頻度に認められる。 ⑥感覚障害 表在及び深部知覚障害。AMNでは、脊髄性の感覚障害を示す例が多い。 ⑦自律神経障害 排尿障害、陰萎などを呈する。 ⑧副腎不全症状 無気力、食欲不振、体重減少、色素沈着(皮膚、歯肉)、低血圧などを呈する。 2.参考となる検査所見 (1)極長鎖脂肪酸分析 C26:0、C25:0、C24:0などの極長鎖脂肪酸の増加を認める。血清スフィンゴミエリン、血漿総脂質、赤血球膜脂質などを用いて分析する。極長鎖脂肪酸の蓄積の程度と臨床病型の間には相関性はない。女性保因者の約80%で極長鎖脂肪酸の増加を認める。 参考値(血清スフィンゴミエリンC26:0/C22:0) 小児型ALD 0.0260 ± 0.0084 (n=47) 正常コントロール 0.0056 ± 0.0013 (n=710) (2)画像診断(頭部MRI、頭部CT)  小児大脳型、思春期大脳型、成人大脳型では、大脳白質の脱髄部位に一致して、CTでは低吸収域、MRI T2強調画像では高信号域を認める。病変の分布は後頭葉白質、頭頂葉白質の側脳室周辺部、脳梁膨大部が多いが、まれに前頭葉白質から脱髄が始まる例もある。  AMN及び小脳・脳幹型では錐体路、小脳、脊髄小脳路の脱髄を主体とする。活動性の脱髄病変のある部位では、ガドリニウムにより造影効果を認める。 (3)神経生理学的検査 聴性脳幹誘発電位(ABR)では、I~III波間潜時が延長することが多い。体性感覚誘発電位(SEP)及び視覚誘発電位(VEP)も異常を認めることが多い。末梢神経伝導検査も軽度低下を認めることがある。 (4)副腎機能検査 臨床的に無症状でも、ACTH高値やrapid ACTH試験で低反応を認めることがある。 (5)遺伝子解析 ABCD1遺伝子の変異は多彩で、病型と遺伝子変異には明らかな相関は認められていない。同一の変異を有していても異なる臨床病型を示すことはよく経験される。 (6)病理所見 病理変化は中枢神経系と副腎であるので、生前の診断には役立たない。大脳白質の脱髄、グリオーシス、血管周囲の炎症細胞浸潤が強いことも本疾患の特徴である。副腎では皮質細胞の膨化、進行期には著明な萎縮を認める。大脳白質マクロファージ、副腎皮質細胞、末梢神経シュワン細胞に松の葉様の層状構造物を認める。この構造物は極長鎖脂肪酸を有するコレステロールエステルを含むものと推定されている。 3.鑑別診断 (1)小児 注意欠陥多動障害、学習障害、心身症、視力障害、難聴、アジソン病、脳腫瘍、亜急性硬化性全脳炎(SSPE)、他の白質ジストロフィー (2)成人 家族性痙性対麻痺、多発性硬化症、精神病、認知症、脊髄小脳変性症、アジソン病、脳腫瘍、 悪性リンパ腫、他の白質ジストロフィー 4.診断のカテゴリー (1)主要症状及び臨床所見で述べた項目(①~⑧)のうち少なくとも1つ以上該当がある。 (2)血漿、血清、赤血球膜のいずれかで極長鎖脂肪酸値が高値。 (3)頭部MRI、神経生理学的検査、副腎機能検査のいずれかで異常を認める。 Definiteとしては、下記①~④のいずれかに該当する症例とする。 ①上記、診断基準(1)~(3)の項目全てを満たすもの(発症者) ②家族内に発症者又は保因者がおり、診断基準(2)を満たす男児(発症前男性) ③診断基準(1)と(3)を満たす女性で、家族内に発症者又は保因者がいる、あるいは極長鎖   脂肪酸高値やABCD1遺伝子変異をヘテロ接合で有する場合(女性発症者) ④ABCD1遺伝子変異が同定された男性 <重症度分類> 下表の病型分類を参照し、全ての病型を対象とする。 表:副腎白質ジストロフィーの病型 ①小児大脳型 発症年齢は、3~10歳。性格・行動変化、視力・聴力低下、知能障害、歩行障害などで発症し、数年で植物状態に至ることが多い。最も多い臨床病型。 ②思春期大脳型 発症年齢は、11~21歳。臨床症状、臨床経過は小児型とほぼ同様。 ③副腎脊髄ニューロパチー(adrenomyeloneuropathy:AMN) 10代後半~成人で、痙性対麻痺で発症し緩徐に進行する。軽度の感覚障害を伴うことが多い。 軽度の末梢神経障害、膀胱直腸障害、陰萎を伴うこともある。 小児型に次いで多い。 ④成人大脳型 性格変化、認知症、精神症状で発症し、小児型と同様に急速に進行して植物状態に至る。 精神病、脳腫瘍、他の白質ジストロフィー、多発性硬化症などの脱髄疾患との鑑別が必要。 AMNの臨床型で発症し、経過中に増悪して成人大脳型となる場合もある。 ⑤小脳・脳幹型 小脳失調、下肢の痙性などを示し脊髄小脳変性症様の臨床症状を呈する。 ⑥アジソン型 無気力、食欲不振、体重減少、皮膚の色素沈着など副腎不全症状のみを呈する。 神経症状は示さない。 ⑦女性発症者 女性保因者の一部はAMNに似た臨床症状を呈する場合がある。 ⑧その他 発症前男性。 ※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項 1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る。)。 2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。 3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要なものについては、医療費助成の対象とする。

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